りつこの読書と落語メモ

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帰還兵はなぜ自殺するのか

帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

★★★★★

ピュリツァー賞作家が「戦争の癒えない傷」の実態に迫る傑作ノンフィクション。内田樹氏推薦!

本書に主に登場するのは、5人の兵士とその家族。 そのうち一人はすでに戦死し、生き残った者たちは重い精神的ストレスを負っている。
妻たちは「戦争に行く前はいい人だったのに、帰還後は別人になっていた」と語り、苦悩する。
戦争で何があったのか、なにがそうさせたのか。
2013年、全米批評家協会賞最終候補に選ばれるなど、米国各紙で絶賛の衝撃作!
「戦争はときに兵士を高揚させ、ときに兵士たちを奈落に突き落とす。若い兵士たちは心身に負った外傷をかかえて長い余生を過ごすことを強いられる。 その細部について私たち日本人は何も知らない。何も知らないまま戦争を始めようとしている人たちがいる。」(内田樹氏・推薦文)

ノンフィクションはめったに読まないし、すすんで読みたくなるようなタイトルではないのだが、大好きな古屋美登里さんの翻訳だったので読んでみた。

アフガニスタンイラクに派兵された兵士はおよそ200万人。そのうち50万人がPTSD(心敵外傷後ストレス障害)とTBI(外傷性脳損傷)に苦しんでいる。
本書に登場するのは、5人の兵士とその家族。そのうち一人は戦死しているが、生きて帰ってきた兵士たちは重い精神的ストレスを抱えている。

戦争で手足を失い仲間を失い敵とあらば幼児をも殺し、どうにか生き延びて帰ってきた兵士たち。壊れた身体と心は癒されることなく自分で自分を許すことができず苦しみ続ける。
自制心がきかず妻を殴る、妄想や疑心暗鬼に囚われて異常な行動に走る、うつ状態になって仕事が続けられない、自己嫌悪や絶望から自殺を考える。
彼ら自身だけでなく家族も巻き込み一緒に地獄を見る。

明るくて正義感があって高潔で誰もが好きに
らずにはいられない男、アダム・シューマン軍曹は重度のPTSDに陥り帰国する。 毎晩悪夢にうなされ罪悪感に苛まれ気力が沸かずうつ病の薬で気力を奪われ身動きがとれない。 一生彼を支えると誓った妻も、時が経っても全く回復の兆しを見せないアダムに苛立ち、生活苦に苦しみ、夫婦喧嘩が絶えない。

アダムは妻や子どもに手をあげることはなかったが、自制心がきかず妻子に罵声を浴びせかけ殺す寸前まで殴ってしまう兵士も少なくない。
戦場へ行く前まではあんなに優しかった夫がなぜこんなにも変わってしまったのか。
回復を待とう、支えようと思っていた妻も、度重なる暴言、暴力に身も心も疲れ果て、子どもを連れて夫から逃げざるを得ない。

「兵士という職業は仕事にあぶれたひとたちの受け皿になる」と嘯く人たちはこれを読んでもそんな風に言うことができるんだろうか。
これを読んですべて「他人事」と割り切ることができるのだろうか。
戦場で祖国のためにと頑張ったことが戦地から帰ってきた時には苦しみになる。
本当に救いがない。