りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ボグ・チャイルド

ボグ・チャイルド

ボグ・チャイルド

★★★★★

1981年、北アイルランド。国境近くの村に暮らす高校生・ファーガスは、紛争が続くこの土地から離れて、イギリスの大学で医者になることをめざしていた。ある日、こづかい稼ぎに泥炭の盗掘にでかけた湿地で、ファーガスは少女の遺体を発見する。泥炭の作用で生々しく保存された遺体には、絞殺の跡があった。一方、アイルランド独立をめざす兄・ジョーは、獄中でハンガー・ストライキを敢行。死へのカウント・ダウンがはじまる。故郷への思いと、自由への渇望とのあいだで揺れるファーガスは、兄の命をかけて、ある決断をする…。“湿地の少女”の死の真相とは?ファーガスは、その手に未来をつかめるのだろうか?―二〇〇九年カーネギー賞受賞作。

「怪物はささやく」がとても良かったので、その原案者であるシヴォーン・ダウドの作品を読んでみた。

物語の舞台は1981年の北アイルランド
高校生ファーガスは紛争が続くこの地を離れ医者になるためにイギリスの大学への進学を目指している。
ある日叔父と訪れた湿地で二千年前の少女メルの遺体を見つける。

アイルランド独立を目指しIRAで活動をしていた兄は投獄されハンガーストライキを慣行し死に向かっている。
独立運動を支持する父と政治活動よりも兄の命を守りたい母。その両方に挟まれて苦悩するファーガス。

そんな過酷な現実がある一方で、発掘作業に来ていたコーラとの恋愛が始まったり、冗談を交し合う友人がいたり、見張りをしている兵士との友情があったり…普通の高校生の面もあるのだ。
ある時は恋愛の方が兄の生死より大事に思えたり、しかしそんな自分を恥じたり…逆にコーラ親子といると気楽な(そう見えるだけかもしれないが)彼女たちが別次元を生きてるように思えたり。

また発掘された少女メルの物語が並行して語られるのだが、メルの物語がファーガスの物語と重なって響きあうのが非常に味わい深い。
メルの苦悩や初恋のときめきがそのままファーガスと重なりあう。
メルの物語はファーガスが見る悪夢のようでもあり、未来を暗示しているようでもある。

何世代にもわたって受けつがれる、変わりばえもしない悪意。

暴力から生まれるのは暴力だけだ。
自分がそれに気付いたとしても一人の力はあまりに小さい。愛する兄のことを止める事もできなければ、ましてや大きな流れを止めることはできない。
どうしようもない無力感に襲われるけれど、しかし若者には未来がある。
死と隣り合わせであっても恋をしたり夢を見たり未来に思いを馳せる限り、未来はある、必ず。

読んでいる側からすると、辛い物語なだけに語り手が高校生であるというところが非常に救いになっている。
ヤングアダルトというジャンルの意味がそこにあるように思った。