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「ときどき運良く自分の力以上のものが書けたりする。」(ヘミングウェイ)「わたしは無教養な技術屋だからさ。」(ヴォネガット)――ガルシア=マルケス、アーヴィング、ソンタグ、ラシュディ……打ちとけた会話の中に〈創作の秘密〉が溢れだす。伝説のインタヴューから精選、圧巻の顔ぶれ! 文学ファン必読!
アーヴィングのインタビュー目当てで読み始めたけど、他にも面白いインタビューが沢山。一人一人の内容もボリューミーで満足感がすごかった。
どの章もインタビューの前に作家が仕事をする部屋や話をしている時の様子、記者が持った印象等が詳細に書かれている。どこどこにあるマンションの高層階でとか、こういう本棚が置いてあってそこに一生かけても読み切れない量の本が収められていてとか、こういう質問をするとあからさまに拒絶反応を見せたとか。作家がこんな風に書いているのかというのがイメージしやすくて最高。
あと特徴的なのは、インタビューした内容をそのまま載せているのではなく作家と一緒に推敲を行って掲載しているということ。
中には作家自身の加筆が多すぎて「これはもはやフィクション」というものもあった。
「パリレヴュー」が目的としている物は、作家の不意を突くことではない。作家がいちばん興味をもっているものについてできうるかぎりフルに考えを述べてもらうことなのだ
「そこまで突っ込んだ質問をするの?」とドキドキするようなことも聞いていて、生半可な知識では行えないインタビューだと思う。自分がこのインタビューをしてこいって言われたら震え上がるわ…。(無理無理!
ヘミングウェイがどんな環境で文章を書いていたのか。
昔からの仕事の癖だが、ヘミングウェイは立って書く。踏みつぶしたシマカモシカの毛皮の上に大きめのローファーをはいて経つーーータイプライターと書見台がちょうど胸の高さでかれと相対する。
作品にとりかかるときは、いつも鉛筆から始め、書見台の上に半透明のタイプ用紙を置いて書く。
うわぁーーーヘミングウェイは立って書いてたんだ!
また、どんな風に小説を書いているのか。
わたしはいつも氷山の原則にしたがって書いているんだよ。氷山は、見えているどの部分についても、八分の七は水中に没している。自分が知っているものはなんでも削るのがいい、すると、氷山はどんどん強力になる。見えていない部分がね。
(中略)
「老人と海」は千ページを越える長さになってもよかった、村の人物たちを残らず登場させ、かれらがどうやって暮らしているか、どういうふうに生まれ、どんな教育を受け、どんな具合に子どもをもったかなどなど、細かく示すこともできた。そういうことを見事にやっている作家たちもいる。
(中略)
まずは、読者に経験をもたらすことにおいて不要なものはすべて削るように努めた。
削って削ってそぎ落としたからこそヘミングウェイの作品はあんなにすごい内容なのにあんなに本が薄いのね。そしてだから読み解くのに時間がかかるし私には理解が難しいのね、と納得。
ジョン・アーヴィングがどういう風にタイトルを決めてあの長い小説を書き始めるか。
タイトルはものすごく大事だよ。本の影も形もない頃からタイトルはできてる。それから、最後にくる数章も、初めに来る数章の影も形もないときから、頭のなかにできてるね。始めるのは、たいてい、おしまいからだ、すべてが終わったあとの余波、すべての騒ぎが収まったあとのこと、エピローグを意識して始める。ぼくはプロットが大好きだけど、終わりがわかってないでプロットってたてられるかい?人物をひとり登場させるのにも、そいつが最後はどういうふうになるのかわかってないで登場させられる?
アーヴィングは作家は「媒体」であり、小説は自分が存在する前から存在していると感じているとも言っていて、面白いなぁと思った。
インタビューを読んで、もっとちゃんと読んでみたいと思った作家は、アイザック・バシェヴィス・シンガー、カート・ヴォネガット、ガブリエル・ガルシア=マルケス。
自分が作品自体に苦手意識のある作家のインタビューは何度読み返しても「何を言っているのかよーわからん…」となったのも面白かった。
