りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

教科書で読む名作 山月記・名人伝ほか

 

教科書で読む名作 山月記・名人伝ほか (ちくま文庫)
 

 ★★★★★

これまで高校国語教科書に掲載されたことのある短編を中心に編んだ、中島敦の作品集。教科書に準じた注と図版がついて、読みやすく分かりやすい。理解を深める名評論と、付録として「山月記」のもととなった中国の説話「人虎伝」も収録。 

漢文調の文章なのでとっつきにくさはあるが、「教科書で読む名作」ということでページ内に訳注が入るので存外読みやすかった。ページ内っていい!それに時々挿絵が入っているのも親切。このシリーズいいなぁ。


山月記
虎になってもなお自分の詩を聞いてほしいと語る男に人間の承認欲の強さと弱さを見せつけられる思い。
恐ろしいような静謐な自然描写も素晴らしく胸に迫るものがある。
山月記」は以前阿部壽美子さんの語りで聞いたことがあったんだけど、あれも素晴らしかったなぁ。

「悟浄歎異」
西遊記」の沙悟浄が語り手となって孫悟空三蔵法師のことを語る。
彼らへの憧れや尊敬、感嘆の想いを語りながら、ふがいない自分に対する羞恥の念やこのままではいけないという焦燥をあらわにする沙悟浄は、「山月記」の李微のようでもあり、また私たち自身も彼の姿に自らを投影しないではいられない。
人のことはどうとでもいえるが自分は…。

ラストの場面がとても美しく象徴的だ。

 

「李陵」
前漢の軍人李陵や司馬遷蘇武を描いた物語だが、これが本当に面白かった。
冒険心に富み、多勢に無勢という圧倒的不利な状況の中果敢に戦いながらも匈奴の捕虜となってしまう李陵。国への忠誠心の塊のような男が、間違った噂がもとで家族を武漢に処刑されたことを知り、漢と匈奴との間で揺れ動く。この葛藤がとても人間的で真に迫って素晴らしかった。