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ソ連邦成立直後のモスクワ。急死した男の脳下垂体を移植された野良犬シャリクが人間化し、ブルジョワたちを震え上がらせる。奇想と強烈な諷刺に満ちた、20世紀最大のロシア語作家の代表作。解説:沼野充義。
小原ブラスさんが「ロシア人はこの作品が大好きで全員読んでる」「これを読まないとロシア人のことは分からない」と言っていたので読んだんだけど、面白かった~。
死にかけている野良犬のシャリクが怪しげな実験を行う博士・フィリッポ・フィリポヴィチに保護される。フィリッポの弟子の医師・ボルメンタリーの治療を受け怪我も治癒したシャリク。しばらくは暖かい部屋で美味しいご飯をもらえて幸せな日々を送るのだが、ある日死んだ人間の脳下垂体と精嚢を移植されて、醜悪な犬人間・シャリコフに大変身!
実験が成功したとフィリッポとボルメンタリーが喜んだのもつかの間、管理人のシヴォンテルに革命派の手ほどきを受けたシャリコフはフィリッポたちと相反する思想に傾倒し、犬の本能も残しているため破壊的な行動を繰り返す。
シャリコフを殺した方がいいと言うボルメンタリーに「シャリコフは自分が作り出した人間。道義的にそれはできない」と反発するフィリッポ博士だが、日に日に知恵を付けて迷惑な行動のスケールがアップしていくシャリコフに追い詰められていき…。
犬の時は善人(善犬?)だったシャリクが、奇怪で粗野でずるくてグロテスクな犬人間になってしまったのは、おそらく「人間」の部分が醜悪だったから…。心臓は犬のままでも人間の脳下垂体と精嚢を持つと邪悪な存在に変化してしまう。
そもそも博士の実験は富裕層を若返らせるための実験だったというのも皮肉だ。
革命後のソ連のすさんだ世相の中、旧体制インテリの博士と革命派に洗脳された犬人間が、お互いを嫌悪しながらも離れることもとどめを刺すこともできず対峙する様がおかしくもあり恐ろしくもあり…。
政治的な風刺が効きすぎていたために、原稿を没収され出版できず、亡命する許可も下りず…スターリンから直接電話がかかってくるほど一目置かれた作家だったということをあとがきを読んで知った。
「巨匠とマルゲリータ」もかなりぶっ飛んだ作品だったけど、こちらも面白かった。
今読んでも十分面白いし全く古びていないのが凄かった。
小説の力を見せつけられた。
