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饒舌な弁護士だが私生活では空回りが多い兄と、社交が苦手な頭脳派チェスプレイヤーの弟。二人は父の死をきっかけに、互いの不器用さと向き合うことに。喪失の中で愛情を求め、複雑な恋愛関係や社会との距離に揺れ動く兄弟を描き切る、サリー・ルーニー最新作
ハンサムで有能な弁護士の兄ピーターとチェスプレイヤーでコミュニケーションが苦手な弟アイヴァン。長い間闘病していた父が亡くなり喪失感を抱える二人は人には言えない恋愛をしている。
ピーターには長年付き合っていた聡明で穏やかなシルヴィアという恋人がいたが、彼女が交通事故に遭い肉体的な接触ができなくなり別れたものの、彼女の通院に付き合ったり時には彼女の家に泊るような関係が続いている。またナオミという不法滞在している23歳大学生の彼女もいて、彼女を金銭的に助けたり一緒にクスリをやったりする裏の顔を持っている。
シルヴィアとナオミにはお互いの関係性も話していて納得もしてもらっているものの、二人に対して不誠実であるという罪の意識に苛まれるピーター。
父の死をきっかけに不眠になり、酒とクスリに溺れては罪悪感に苛まれるという日々を送っている。
アイヴァンはチェスのイベントで訪れた町でイベントを手伝う36歳のマーガレットという女性に出会う。美しく思慮深く温かい人柄に惹かれたアイヴァンは今までの女性経験の少なさやコミュニケーション能力が低いことへのコンプレックスを抱きながらもマーガレットに近づく。
一方マーガレットはアル中の夫と別居中で町中の人から好奇の目で見られていることに傷つき、自分の味方になってくれない母親に反発しながらも仕事に打ち込む中で、アイヴァンに出会い、誰も知りえなかったアイヴァンの繊細さや知性に惹かれていく。
ピーター、アイヴァン、マーガレットそれぞれの視点から語られるのだが、最初のうちは圧倒的にアイヴァンとマーガレットに感情移入し、彼らに酷いことが起きませんように…という気持ちで読み、途中からピーターの危うさに冷や冷やして、どうなる?どうなる?と読み進めていったのだが、この小説が実はストーリーを展開していくのではなくむしろ内面をどんどん深く掘り下げていく小説で、それが意外だったし予想をいい意味で裏切られた。
10歳年が離れた兄弟で、夢見がちな父親と弟を見て育ち、現実的な勝者にならざるを得なかったピーターは、自分は誰からも理解されず感謝も愛されることもないという鬱憤を抱えている。
一方アイヴァンは家族の中で唯一心の通じ合っていた父親を亡くし、母とピーターは自分を下に見ていて分かってくれないという劣等感を抱いている。
兄弟の中にあるわだかまり、親との相性、理解してほしいという思いが強いからこそすれ違った時に生まれる絶望と憎悪。
人間を強者と弱者とひとくくりにすることはできないし、恋愛も正しいとか正しくないとジャッジすることもできない。
恋愛を通して彼らが自分を見つめて相手のことを思いやって関係を作る中で、今まで目を反らしていた家族の問題にも向き合い成長する姿に「そうきたか」という思い。
最後のシーンがとても美しく温かくて泣いた…。
厚さにひるんだし読み始めはどういう展開になるのか分からなくて苦戦したけど、読んでよかった。
アイルランドの小説は何冊か読んでいるけどなんとなく国民性が日本人と似ているように感じていて(人目を気にするところとか親子関係とか遠慮深さとか…)、理解もしやすいし面白かった。
他の作品も読んでみたい。
