りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ

 

誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ (となりの国のものがたり4)

誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ (となりの国のものがたり4)

  • 作者:イ・ギホ
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 ★★★★★

ネット古書店エゴサをしていたら、サイン入り自作が売りに出されていることに気づいた作家「イ・ギホ」。しかも他の作家の本より格安、酷評のコメント付きだった。悶々として眠れぬ彼は、出品者に直接会おうとはるばるでかけるのだが…。(「チェ・ミジンはどこへ」)。「あるべき正しい姿」と「現実の自分」のはざまで揺れ、引き裂かれるふつうの人々を、ユーモアと限りない愛情とともに描く傑作物語集。 

 在宅勤務が始まったらすっかり本が読めなくなってしまった。

通勤と一人のランチタイムに読むことが多かったせいもあるけれど、それ以上にちょっと気持ち的に参っていたのかもしれない。自分の中に本を読むスペースがなくなってしまっているような感じ。

図書館から届いた人気本を開いては1ページも読めずに閉じる…を繰り返していたんだけど、内容によっては読めるかもしれないとこの本を手にして正解だった。
毛羽立った心が少し慰められたような気がする。

全編通じて描かれているのは「恥、羞恥」とあとがきにあり、なるほど…と思ったのだが、根底には「正しくありたい」という道徳心があるように感じる。
ダメなところや弱いところもあるけどそれが人間らしさだよね、と全面的に受け入れる姿勢はなくて、そのダメさを冷徹に見つめている。
ユーモアもたっぷりで軽い筆致で描かれているけど、あはは…と笑えない。

「恥」の意識は日本人にも馴染みのあるものだけに、チクチクと胸を刺す痛みを感じた。

善良な人の行動に感じる苛立ち。邪悪さを警戒して逃げてしまう弱さ。苦いけれどとても面白かった。
好きだな。イ・ギホ。
「原州通信」も読んでみよう。