★★★★
空を飛ぶ病身の女、
キャベツの赤ん坊を育てる母親、
身体を入れ替えられた妻、
生の心臓を食べたがる娘、
マッチを擦る黒いコートの少女----現代ロシアを代表する女性作家による、本邦初の幻想短篇集。現実と非現実、生と死の狭間をたゆたう女たちを強靱な筆致で描く、めくるめく奇想世界。全18編を収録した日本オリジナル編集。
ペトルシェフスカヤの幻想小説の主人公たちは、
狭苦しい共同アパートの息も詰まらんばかりの
即物的な「生の王国」にいたはずが、
いつのまにか「境界」を踏み越えそうになり、
抽象的な風景にとまどいながら我知らず
境界領域を旅していることが多い。
(略)彼らはふたたび「生の王国」に戻って
来られることもあれば、そのまま
「死の王国」へと旅立たなければならないこともある。(訳者あとがき」より)
とても苦しみながら読んで、途中何度か挫折しそうになって一時中断して、他の本を何冊か読み終わって、また戻ってきてどうにか読み終わったんだけど、読書メーターに感想を登録しようとしてびっくり。以前読んだことがあって感想もあげていたyo!(このブログには登録はしていたけど感想はあげてなかった)
短篇集で一話一話はそれほど長くないし文章も読みやすいんだけど、生と死の境目が曖昧で、簡単に殺すし簡単に死ぬし時々は生き返る。
読んでいて、うわぁぁぁと気が滅入る話ばかりで、なかなか読み進められなかった。
「私のいた場所」
夫と一緒にお客に行った先で、夫が子供みたいな娘のそばに腰を下ろしいつまでもぐずぐずしているのを目にしたユーリャは衝撃を受け愛が身体から抜けていくのを感じる。
こんな家にはいたくないと荷物をまとめて家を飛び出す。
向かった先はアーニャおばさんの家。何年も会ってはいないけれど別荘を持っていて娘とはほぼ絶縁状態で娘の産んだマリンカという孫と一緒に暮らしている。茶目っ気があって行けばいつも歓迎してくれたおばさんのもとへ泊りに行こう。
途中であやうく車にはねられそうになりながらおばさんの家を訪ねると、家は朽ち果ておばさんの様子がおかしい。
歓迎どころか「私は埋葬されたの」「さあさ、帰って」と言う。
家が荒れ果てて水さえないのを見たユーリャは近くの井戸へ水をくみに行き戻ってくるとおばさんは玄関のカギをしめてしまっている。
自分の荷物も家の中に置きっぱなしだからどうにかして中に入らないとと思い、二階の部屋がいつも鍵を開けっぱなしにしていたことを思い出し、屋根までのぼるが…。
読んでいて、ユーリャがおばさんの家に行こうと決めた時に「ああ、きっと歓迎されないんだろうなぁ」と思う。思ってはいたんだけど、待っていたのは想像していたよりも悲惨な事態で、うわぁ…なんだろうこれは、いやでもそもそも家を飛び出すくだりも唐突ではあったしなぁと思っていると、思わぬ展開が待っている。
このおばさんの家の描写に既視感があってぞぞぞ…としたんだけど、前に読んだからなんとなく覚えていたってことか?(とほほ…。
「奇跡」
息子が首を吊り瀕死の状態で病院に運び込まれる。
母はなにがなんでも息子の命を助けてほしいと願うが、この息子が彼女がいろんな仕事をして稼いだ金をあてにして、テープレコーダーを欲しがり、買ったら買ったで「これじゃだめだ」ともっと高くてもっと性能のいいものに替えてきて、近所の悪いやつらからいじめられたり盗られたりして彼女が稼いだ金を無尽蔵に使い果たし、軍隊に呼ばれてやっていく自信がないから狂言自殺をしたのだった。
なけなしのお金をはたいて手術をお願いすれば息子の命は助かるかもしれないが、狂言自殺を図ったと思われているから助かった後は精神病院に入れられることは分かっていて、そうするとまたお金がかかるし、運転免許証を取ることができないから息子が絶望することは目に見えている。
自分はどうしたらいいのかと母親が途方に暮れてすれ違う人みなに相談していると、コルニールおじさんに会いに行って解決してもらえばいい、と言う人がいる。
ただしこのコルニールおじさんはアル中なのでウォッカを飲ませないと話を聞くことはできないが、彼は死にかけているのでウォッカを飲ませたら致命傷になり死んでしまうだろう、と言われる。
途方に暮れた母親はウォッカを持ってコルニールおじさんに会いに行くのだが…。
これもまた絶望オブ絶望な物語。
息子をそのまま死なせるのも地獄、生き返らせるのも地獄。
それでも自分の命より大事な息子を生き返らせたい、でも今の状態で生き返ったところでろくなことにならないことは分かっている。いったいどうすべきなのか分からず、神でも悪魔でもない…死にかけている謎のコルニールおじさんに会いに行く…。
この絶望の淵で彼女が達した境地に希望があるわけでもないということろがみそで…。
でも知り合いも知らない人も神も賢者も政治家も助けてはくれないのだから、自分で自分のことは考えるわ、というのは究極の正解なのかもしれない。
どの物語にも根底にあるのは圧倒的な絶望で、熱がある時に見る夢のように理解できないルールがあって自分ではコントロールできなくて、ぐるぐるぐるぐる回っている。 背負いきれない不幸と精神の荒廃にやられながら読み終えた。















