りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

夜毎に石の橋の下で

夜毎に石の橋の下で

夜毎に石の橋の下で

★★★★★

ルドルフ二世の魔術都市プラハを舞台に、皇帝、ユダヤ人の豪商とその美しい妻らが繰り広げる数奇な物語。夢と現実が交錯する幻想歴史小説の傑作。

ペルッツプラハ生まれのユダヤ系作家でこれは1951年の作品ということなのだが、もっと昔の作品なのかと思って読んでいたのでちょっと驚いた。

1589年の秋に、神聖ローマ帝国の首都プラハユダヤ人外で疫病が流行り子どもたちが次々死んでいく。婚礼帰りの〈阿呆のイェケレ〉と〈熊のコッペル〉は墓に供えられた銅貨をくすねようと夜中の墓地に忍び込み、死んだ子どもの霊に会う。霊にこの病は姦通の罪に対する神の怒りだと告げられた阿呆のイェケレ〉と〈熊のコッペル〉は恐ろしさに震えながら〈高徳のラビ〉のもとを訪れ、今見聞きしたことをラビに伝える。
〈高徳のラビ〉は何か思い至り、ヴルタヴァ河に架かる石の橋の下に赴きあることを行うのだが…。

とにかく最初から摩訶不思議な雰囲気が満ち満ちている。
霊は出てくるし、ラビは死者を蘇らせることができるし、この時代は今よりずっと生と死の境界が曖昧だったのかしら…と思う。
そして第一話目が謎を残したままぷつりと終わり、舞台はそれから9年後にうつり、ボヘミア独立を夢見る青年貴族の物語。
連作短編のような形式で次々主人公が入れかわり、また時代も前後しながら、摩訶不思議な物語が紡がれていくのだが、皇帝ルドルフ二世、ユダヤ人の豪商マイルス、その美しい妻エステル、高徳のラビはそれらの物語に何度も登場し、一見無関係に思われたそれぞれの物語の中から、やがて第一話の答えが導き出されていく…。

皇帝ルドルフ二世を筆頭に、登場人物たちはそれぞれ疑心暗鬼になったり横恋慕したり金に目が眩んだりする一方で、根っこの部分には圧倒的な信仰心がありそれが全ての基準となってあることが、読んでいてとても不思議。
さらに悪魔や天使の自由すぎる振舞いと、ラビの大胆すぎる行動にも驚かされる。

決して読みやすい文体ではなく、物語もゆらゆらとたゆたうようで掴みづらいのだが、物語の中をゆらゆらしながら身を任せるようにして読んでいる時間はなんだか幸福で、最初に残された謎が最後にはきちんと腑に落ちるところも素晴らしかった。