りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

赤目四十八瀧心中未遂

赤目四十八瀧心中未遂

赤目四十八瀧心中未遂

★★★★★

「私」はアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、迦陵頻伽の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」―。圧倒的な小説作りの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る。直木賞受賞で文壇を騒然とさせた話題作。

死んだように生きる男と生にしがみついて泥のように生きる女。どちらも哀れで悲しいが、どこに暮らしても傍観者でしかいられない男の虚しさ。
もうなにも要らない、自分には何も残されていないと言いながら、性欲だけは一人前でいざとなると思考停止して身動きが取れない。

巻き込まれるだけの男が最後、女に心中を誘われ、一緒に旅に出る。
生きることに意味はないと言いながらも、後ろから追いかけてくるものに怯え、女に置いて行かれることに怯え、死ぬことに怯える。

大人のような顔をして普通の生活を送っているようにしている自分も、この主人公とあまりかわりはないのかもしれないと思うと、ちょっとぞっとする。
見たくないものを見せられているような嫌な気持ちで読んでいたのだが、読後感は不思議に清々しい。
意味はなくても死ぬまでは生きていくしかない。
生きることに意味がないのと同じように、死ぬことにも意味はない。