りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

柳家さん助 楽屋半帖

3/23(月)、駒込落語会で行われた「柳家さん助 楽屋半帖」に行ってきた。
 
・さん助「王子の狐」
~仲入り~
・さん助「オーロラよりマンモス」(三題噺「花より団子」「氷河期」「大団円」)
・さん助「子別れ」
 
さん助師匠「王子の狐」
この話題に触れるのもとも思うんですが、しかし今この話題に触れないのもなんだか…なので言いますけど、コロナ…大変なことになってますね、とさん助師匠。
私もご多分に漏れず仕事がことごとくキャンセルになっていて…前は電話がかかってくると仕事の電話だと思うから喜んでたんですが、今は電話が怖いです。
主催者がやりたいと思っても会場から断ってくることも多いみたいで、これでやるならもう二度とこの会場を使わせないぞ、と言われたりするようです。
噺家を見ていると二つのタイプに分かれます。
コロナなんか全然関係ない、仕事がキャンセルになってもへっちゃら、というタイプ。プライドなのか芸人の矜持なのかやせ我慢なのか。
また逆に大変だ大変だ仕事がなくなって大変だ、なんでもいいか仕事くれ、というタイプ。
で、あともう一つあるということに気づきました。
それは、寝る。ただ寝る。いや…困ってないわけじゃないし心配してないわけじゃないんです。でも何もしないで何も言わずにひたすら寝る。
 
…ぶわははは。さん助師匠はひたすら寝てるんですね(笑)。
そんなまくらから「王子の狐」。
さん助師匠の「王子の狐」は前にも見たことがあるけど、すごく楽しかった。
狐が色っぽくてかわいいし、男はどこまでも能天気だし。会話に時々「こん」が挟まってきたり、男がきつねだと分かっているようなことを何度も匂わすのも面白い
なんか、さん助師匠がのびのびやってるっていうか、楽しんで落語をやってるのが伝わってきて、とっても楽しかった。
 
さん助師匠「オーロラよりマンモス」 (三題噺「花より団子」「氷河期」「大団円」)
高座に上がるなり、杖を突きながら「ぐぁーーーーー」と叫ぶさん助師匠。
わはははは。氷河期ですね、いきなりの!
 
風や雪をよけるように杖を突きながら前に突き進む。突風がきて吹き飛ばされそうになりながら。
「ああーーなんでこの仕事受けちゃったんだろう。氷河期に行ってマンモスに”牡丹灯籠”を聞かせる仕事なんて。…協会から電話がかかってきて交通費込みで3万円。しかも”牡丹灯籠”持ってないのに。あ、でも大丈夫。この岩波文庫後の圓朝集があるから。これがあればなんとかなるだろう」
そう言いながら猛吹雪の中、進んでいく。
すると前方に人影が。「あ、あれがコーディネーター?しかし氷河期の落語会のコーディネーターってなんなんだろう?…すみませーん」
声をかけるとやはりその人がコーディネーター。「私、アイス亭クリンです。もとは落語協会に所属している落語家でした」
「…それが氷河期に飛ばされてコーディネーターを?」
「そうでーす」
「で、ほんとにマンモスに牡丹灯籠を聞かせるんですね」
「そうでーす。私とあなた、交互に高座をつとめまーす」
「ほんとにそうなんですね。マンモスが落語を聞きたいんですか?」
「ええ。落語はすごいです。人間だけじゃなくマンモスも聞きたいんです。時空も越えます。”牡丹灯籠”を前やった時は23時間かかりました。それでこちらの方がすっかり参っちゃってウトウトっときたところ、マンモスに襲われて…。前に協会から呼ばれた噺家はそれで死にました」
「ええええ?食べられたんですか?」
「そうでーす。これはマンモスとの闘いなのです。食うか食われるか。逆にマンモスを寝かせることができれば我々の勝ちでーす。」
「それにしても23時間って…そんなにかからなくないですか?」
「いえ、かかります。私が背中に背負っているのは…圓朝全集全12巻でーす」
「ええ?私は岩波文庫だから2時間あれば終わりますよ」
「だめでーす。本格的にやるのでーす」
 
そんな会話をしながら二人が吹雪の中歩いて行くと…
がーーーおーーーーがーーおーーー。(出たー!)
そこにはマンモスが。
そんなことはものともせず紋付羽織袴に着替えるクリンさん。
「黒門付き?」
「牡丹灯籠やるときは黒門付きと決まってます」
で、「まずは私が最初にやります」とクリンさん。マンモス相手に「びちょびちょーーーばびばびーーー」
「え?日本語じゃない?」
「はい、私スウェーデン人でーす」
「まさか牡丹灯籠ができないからその設定…」
「余計なこと言わなーい」
…そして案の定(笑)さん助の「牡丹灯籠」も怪しげなハングル。
「はぁはぁ…あと残り少し…」「ええ…ぜいぜい…ガンバリマショー」
励まし合いながらついに「大団円!」(パチパチパチ)
マンモスは眠りこけてしまい、すかさず扇子で襲い掛かるクリンさん。さん助も一緒にマンモスをやっつけると「これで久しぶりに肉が食べられまーす」
「マンモスの肉、食べるんですか」
「そうでーす。我々が負けてたら我々が食べられてたのでーす」
「マンモスもいいんですけど…私せっかくここまできたらオーロラが見たいです」
「何言ってるんですか、マンモスです」
「いやオーロラが見たい」
「いやオーロラよりマンモス」
言い合っているとさん助が「オーロラよりマンモスってあなた…花より団子みたいな(パチパチパチ!)」
そしてマンモスの肉を食べた二人。とても食べきれないのでそれを背中に背負って帰り始める二人。
「あなた、なにを背中に背負ってるんですか?」
「つづらです。氷河期ですから氷(行李)を背負ってます」でサゲ。
 
…おおおお。「氷河期」が選ばれた瞬間、これは恐竜が出てきてがーおがーーーお!な展開になると思っていたらやっぱり…(笑)。
しかしまさかマンモスに「牡丹灯籠」を聞かせる話だとは思わなかった。
今回お題を選ぶのにすごい時間がかかっていて、いくつか選んでは「あ、やっぱりこっちにします」と選びなおし…。どうやら選びながらサゲを考えていたみたい。凄い。
このハチャメチャな三題噺をもう見られなくなるのかと思うと寂しい。
 
さん助師匠「子別れ」
「朝帰り、だんだん家が遠くなり」
この第一声で、わっ「子別れ」だ!と嬉しいさん助ファン。
さん助師匠の「子別れ」はほんとにいいんだ。ほんとに好きなんだ。特別なんだ。
それを最終回に持ってくるとは…(涙)。
 
酒におぼれていた時分のくまさんのどうしようもなさ。
お弔いに行ったっきり3日帰らなかった言い訳をあれこれしていたのが、おかみさんに吉原に居続けしていたんでしょと言われると「なんだ知っていたのか」と言って、昔の馴染みの女にばったり会ったこと、その女に泣きつかれてそのまま居続けたことをのろける
「女が泣きながら胸にしがみついてきた、ここに、いやここだったか、いやこっちだったか」とにやけたり「それでそのまま布団になだれこんだ」とシャーシャーと言ってのける。
おかみさんが「吉原ののろけを聞かせるなんて」とあきれると「でもそれを振り切って帰って来たんだ」。
おかみさんに「別れておくれ」と言われるとカッとなって大きな声を出して「出ていけ」。
かめちゃんがとりなそうとするのも聞かない。
ちらりと見せるくまさんの暴力性にぞくっ。
 
3年後のくまさんはすっきりした表情。
番頭さんと木場に向かっているとかめちゃんを見つけて声をかける
このやりとりはわりと短めだったけど、解説するろくちゃんや興味津々で聴き耳をたててくまさんより先に泣き出す八百屋さんなど…さん助師匠独自の味付けが、いかにも人情~っていうくささを排除していて好き。
なによりかめちゃんがかわいいんだ。生意気言ったり母親をかばったり子どもらしく喜んだり。自然にかわいい。
母親とのやりとりで嘘をつきとおせなくなったかめちゃんの言葉が詰まるのがもう…。
 
うなぎ屋のシーンもあっさりめなんだけど、おかみさんには二度と顔向けできないと思っていたくまさんがかめちゃんの様子を見ておかみさんに頭を下げるところにくまさんの弱さと優しさがにじみ出てる。
それを「あまりにも都合がよすぎるんじゃないか」といなすおかみさんもかっこいいし、その後の展開もいいなぁ。
久しぶりに見られて嬉しかった~。満足。