りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

こびとが打ち上げた小さなボール

 

こびとが打ち上げた小さなボール

こびとが打ち上げた小さなボール

 

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取り壊された家の前に立っている父さん。小さな父さん。父さんの体から血がぽたぽたとしたたり落ちる。真っ黒な鉄のボールが、見上げる頭上の空を一直線につんざいて上がっていく。父さんが工場の煙突の上に立ち、手を高くかかげてみせる。お父ちゃんをこびとなんて言った悪者は、みんな、殺してしまえばいいのよ。70年代ソウル―急速な都市開発を巡り、極限まで虐げられた者たちの千年の怒りが渦巻く祈りの物語。東仁文学賞受賞。 

急速に経済が発展し都市開発が始まり高級マンションの建設が始まった時期の韓国。

搾取される側は貧しいだけではなく障害を持っていることも蔑まれ虐げられる最底辺の暮らし。抵抗したら職を奪われ再就職もままならない。
低賃金で過重労働を強いられ公害で心身に異常をきたしてもその声を誰も聞いてはくれない。
貧しいのは努力してないからだと蔑まれ、住んでいる家は再開発のために追い出され、新しくできたマンションに住む権利はやると言われてもとても手が出る値段ではない。
自分たちが得ているのは生活費ではない生存費だという彼らの言葉が胸に突き刺さる。

出版物の検閲が厳しかった時代にこの小説が出版できたことにも驚くが、それが韓国で長い間ずっと読み続けられ、そして2016年に日本で翻訳書が出版されたということにも驚く。

こんなことが今でも…?と思うが、この間読んだ「中央駅」も再開発で家を失った人たちの物語だった。
とてもヘヴィな物語で読んでいて顔が険しくなってくるが、決して他人ごとではなく、平和ボケと言われる今の日本でも、これに似たような空気を確かに感じる。
読まれ続けなければいけない物語だと思うが、作者自身がこの本が二百刷を迎えた時に「これは恥ずべき記録だ」と発言したということに、はっとする。