りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ぎやまん寄席 柳家さん助の会

2/12(水)、湯島天神で行われた「ぎやまん寄席 柳家さん助の会」に行ってきた。
 
・まめ菊「一目上がり」
・さん助「富久」
~仲入り~
・さん助「莨の火」
 
さん助師匠「富久」
先日仕事で大阪に行ってきました、とさん助師匠。
せっかくだからと前乗りしてちょっと観光もしてベストなコンディションで高座にのぞむことに。
宿泊先のホテルから天守閣が見えてテンションが上がりあそこに上ろう!と決意。歩き始めたのだがお城というのは直線で近づけないようになっているため、歩けど歩けど近づけない。そういう客を見越してエレクトリックカー(?)というのがいて歩き疲れたと見える人に「乗ってきませんか」と絶妙のタイミングで声をかけてくる。
何度も声をかけられたけど歩いて行くんだ!という強い意志でどうにかたどり着いたのが16時28分。入ろうとすると門の所に立っていたおじさんに「今日はもう終いやで。また明日おいでー」。
いやいやいやいや。そこをなんとか入れてくださいよ!と思っていると自分の後ろからロシア人ぽい女性。くっきりした顔立ちに胸もでかい。彼女がおじさんのまえにたったらおじさん「ほな、入り~」。
…これ実話なんですから!!
 
…ぶわはははは。
天守閣にテンション上がるさん助師匠…歩き疲れたおじいさんと思われて車に何度も声をかけられるさん助師匠…目の前で門を閉められるさん助師匠…最高だ。
 
あと繁昌亭に出た時、自分の前に上がったニツ目が鳴り物を入れてたっぷりやったことに驚いたというのと、笛を上手に吹いてるおじいさんがいて、上方ではそういう専門の人がいるのかな、と思っていたら、なんとこれがトリの師匠。
上方の寄席ではトリの師匠が前座がやる時間から楽屋入りしている、ということに驚いたらしい。
 
そんなまくらから「せっかくですので湯島にちなんだ噺を」。
富札はあちこちで売られていたけれど湯島の富札はなかなか売れなかったらしい。
というようなまくらから「富久」。
 
腕はいいけれど酒癖の悪い幇間の久蔵。酒を飲ませてごちそうもしてやったのに最後は酒に酔って絡んできたり喧嘩をふっかけてくるのでお客は「二度とお前なんか呼ぶか」とカンカンになる。
贔屓を何人もしくじり仕事にはぐれ、飽きれ果てて女房も家を出てしまう
1人になり裏長屋に移るが、一日何もせずただぼーっとしているだけ

ある日そんな久蔵を心配した善兵衛が訪ねて来る。
善兵衛は「お前はこんなところにいる男じゃない、なにか商売替えをしたらどうか」と言うが「よしましょう」と久蔵。
元手のいらない商売だってあるぞと自分もやっているという富くじを売る商売はどうか?と勧める久蔵に「富くじそれなら売るより買うほうがいいや」と久蔵。
一分で買って千両当たると聞いて食いつく久蔵に「こんなもん、あたりゃしないんだよ」と善兵衛。
知り合いには売りたくないというのを無理矢理金を出して買う久蔵はすっかり当たる気になっている。
善兵衛は「でも私が部屋に入ってきた時は死んだようになっていたお前さんが富くじを買ったら元気になって目が輝きだしたからよかったのかな」というのは素敵なセリフ。
久蔵というのは根っからの芸人なんだなぁというのが伝わってくるし、善兵衛の優しさが出ている。
お札を大神宮さまのお宮に入れて「どうか千両当たりますように」と手を合わせる久蔵。
 
その晩芝の辺りが火事になり、長屋の連中が「芝にはお前を贔屓にしてくれていた旦那がいただろう?こういう時にいたら詫びがかなうかもしれないよ」と久蔵を揺り起こす。
最初は「どうでもいい」と言っていた久蔵だったが、みんなに説得されて芝を目指して走りだす。
この時にものすごい風にあって吹き飛ばされそうになりながら走って行くところがさん助師匠らしくていい。
犬に吠えられたり(凄まじい鳴き方で笑っちゃう)、想像上の旦那が「おお、久蔵(喜)」となったり「誰だ、お前は」となったり…あの旦那のことだ、きっと喜んでくれるに違いないという思いと、こんなことでわびがかなうはずがないという思い。この葛藤が面白い。
 
いざ再会の場面になると旦那は他の噺家さんがやるように満面の笑みですぐに「許すぞ」とは言わない。
「久蔵、酒はいい加減にしろよ」ときつく言ったあと、「よく来てくれた。寒かったろう」とねぎらい「これからもちょくちょく顔を出せよ」と一言。
芸人らしく目立つように働いてた久蔵、主が「そこにむすびがあるから食いなよ」。
番頭さんも飯を勧めたり、油揚げをやたらと勧めるのがおかしい。
酒がほしくてしょうがない久蔵の意地汚さが酒飲みらしくてリアルだ。
 
冷で5杯飲むと今度は燗を飲みたがる。飲むとろれつが回らなくなり毒々しくなっていく。
その時に旦那も番頭も酒じゃなく飯を勧めたことを久蔵がねちねち文句を言うのがおかしい。
出入り止めになった時も「うちの外にほっぽりだせ」と旦那に言われた番頭が久蔵を蔵の中に入れた、という話。
ちゃんとむしろをしいた上に腕を荒縄で縛って寝かせた、というのがおかしい。
 
今度は自分の家の方が火事だと言われて久蔵が家に戻ると、長屋の連中はみんな無事だがなぜか久蔵から目を逸らす。
聞けば久蔵の家だけが燃えてそこを壊したことで長屋の他の家は助かった、と言う。
そう聞いてがっかりするものの「みなさんが無事でよかった」と言う久蔵。
旦那に優しい言葉をかけられそのまま旦那のところに居候となる。
暮れで忙しくてほったらかしにしてごめんよと謝る旦那が奉加帳を用意してくれる。金を渡された久蔵がかつてのごひいきを回ると旦那が話を付けてくれていたらしく金は集まる。
そこで湯島の富くじの発表があることを聞いた久蔵が湯島の境内へはいって…。
 
上がったり下がったりのジェットコースターではあるんだけど、札がないと金をもらえないと聞いた久蔵が粘るものの「ああ、いいや!くれてやらぁ!」とすぐに自棄になるのが、その前の久蔵の人柄をしのばせて面白い。
町内の頭に会った時も「お宮なんかは持ち出してねぇよな」と言うと「いや、あったあった」と言われ「泥棒!」と食いついて行くのも、いかにもこの人らしい。
 
たっぷりやるところとわりとあっさりやるところがさん助師匠らしい解釈が見えて好き。
この間見た茶楽師匠のお洒落な「富久」とは全然違うけど、さん助師匠らしい「富久」でとてもよかった。
 
さん助師匠「莨の火」
落語にはいろんな噺があります、とさん助師匠。
面白い噺、面白くない噺、人情噺、…なかに、皮肉な噺というのがあります。これなんかはそうだと思います。
そう言って「 莨の火」。
 
車屋の前を一人のいい身なりをした老人が通る。
声をかけられた老人は「私が乗ると助かりますか?では乗りましょう」。
行くあてもないという老人を乗せてとりあえず西の方角を目指すと老人が「江戸で一番の料理屋と言ったらどこですか」と聞く。
それなら柳橋の万平です、と聞くと「私のような田舎者が行ったらバカにされるでしょうね」と老人。
車屋は女中頭と顔だからちゃんと話を通しておくからその点は心配ない、と言う。
 
店について若い衆・伊八が付くと、1両立て替えてくれ、と老人。
帳場に言うと「はい、持ってお行き」と金が出てくる。これがこの後も繰り返されていいリズム。
見習いの芸者、本物の芸者、たいこもち…それらに立て替えてもらった金で祝儀をきる。
店の若い衆たち全員にあげましょうと50両の立て替えを願うと、ついに帳場から断られる。
それを聞いた老人はならば最初に私が預けた風呂敷を出してくれ、という。
その中にはあふれんばかりの金貨。
それを投げて、店の者や芸者などに拾わせて面白がる男。
 
…なんか聞いたことがあったようなないような…と思っていたら、小満ん師匠の在庫棚卸の会の最終回で聞いたことがある噺だった!
確かに皮肉…。でもちょっと洒脱でもある。
金をまくしぐさをしながらさん助師匠が「このぐらいの(客の)数なら大丈夫」と言ったのもおかしかったー。
 
とても楽しかった!