りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

出来事

 

出来事

出来事

  • 作者:吉村 萬壱
  • 出版社/メーカー: 鳥影社
  • 発売日: 2019/12/21
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★★

仮想と現実を巡る圧倒的言葉の世界。きれいごとを吹き飛ばす圧倒的描写力によって日常世界がめくれあがる。見慣れたはずの外界が何かおかしい。人間の嘘がべろりと浮かび上がる。人間とは何ものか。一見そうは思えないが、本書は脳と文明の虚妄をあばく恐るべき哲学小説である。『季刊文科』連載作、待望の単行本化!

覚悟して読んだけどやはり凄まじかった。静かなタイトルと表紙に騙されちゃいけない。

どこまでが現実でどこからが妄想なのか。その境界が曖昧になるように呪文のように「現実」「偽物」の言葉が繰り返される。
この狂った世界が恐ろしいが、もしかして私が今生きているのも実はこれとあまり変わりがない世界なのかも、とうすら寒くなる。
登場人物がテレビを見ながら「原発のニュースがこんなに軽く扱われて誰も騒ぎもしないところを見てもこの世界は偽物だろう」と思うシーンがあるのだが、確かに…。いつからか私たちはもうあまりにもひどい現実から目を背け見ないように感じないようにして生きていて、ちゃんと目を開けて見ると自分が生きているつもりでいる世界より世界は恐ろしいことになっているのかもしれない。

文明や思考、常識、善意をなんとなく信じて生きているけど、一皮めくればこんなものなのかもしれない?
知らない顔をして生きていると言われると、確かに…とうなづいてしまうのがこの本の恐ろしいところ。