りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

セロトニン

 

セロトニン

セロトニン

 

 ★★★★

巨大化企業モンサントを退社し、農業関係の仕事に携わる46歳のフロランは、恋人の日本人女性ユズの秘密をきっかけに“蒸発者”となる。ヒッチコックのヒロインのような女優クレール、図抜けて敏捷な知性の持ち主ケイト、パリ日本文化会館でアートの仕事をするユズ、褐色の目で優しくぼくを見つめたカミーユ…過去に愛した女性の記憶と呪詛を交えて描かれる、現代社会の矛盾と絶望。 

 親の遺産があるから働かなくてもそれなりの暮らしは送れるものの、仕事への意欲は失せ、同棲相手にも嫌悪しか感じず、抗うつ剤の副作用で性欲もなくなり、失った恋人のことを引きずりながら、生きている主人公フロラン。

何もかも放り出して蒸発を試み、数少ない古い友人を訪ね歩くも、友人もみなどん詰まり状態で、慰めを得ることも彼らを救うこともできない。

自由貿易のおかげで自国の農業は瀕死の状態。医学の進歩で寿命は延びたが何にも楽しみを見いだせず抗うつ剤でどうにか生きている。
衰退する世界と老い衰えていく自分。

主人公の露悪的な言動に嫌悪を抱きつつも、時々身につまされて、うっ…となる。
この閉塞感と孤独感と他人事感が妙にリアル。
陰鬱だけどちょっと笑えて笑う自分にぞっとする。

好きではないけど…そしてきちんと理解できていないけど、それでもなんか惹かれてしまう、ウエルベック作品。