りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

モンスーン

 

モンスーン (エクス・リブリス)

モンスーン (エクス・リブリス)

 

 ★★★★

韓国現代文学の到達点を示す短篇小説集

李箱文学賞受賞「モンスーン」から最新作まで、都市生活者の現実に潜む謎と不条理、抑圧された生の姿を韓国の異才が鋭く捉えた9篇。

ピョン・へヨンは、韓国で最も権威ある文学賞・李箱文学賞を2014年に「モンスーン」で受賞し、以後も数々の文学賞を受賞、男女問わず多くの読者に支持される女性作家である。
派遣社員、工場長、支社長、上司、部下、先輩、管理人……都市という森に取り囲まれ、いつのまにか脱出不可能になる日常の闇を彷徨う人たち。「モンスーン」から最新作「少年易老」まで、都市生活者の抑圧された生の姿を韓国の異才が鋭く捉えた9篇。著者のこの10年の充実の作品群を収めた、日本語版オリジナル短篇集。

「モンスーン」:郊外の団地。ユジンとテオの夫婦関係は冷めきって、会話が成り立たない。きっかけは、生まれて間もないわが子の死だった。子どもを家に置いたまま、二人が別々に外出した時に起きた出来事だった。テオは妻に対する疑念を打ち消すことができない。テオは駅近くのバーで、妻の勤める科学館の館長に偶然出会い……。

「ウサギの墓」:派遣社員の彼は、6か月間だけこの都市に暮らす予定だが、公園に捨てられていたウサギを抱いて家に帰る。仕事は簡単だった。資料を集め、書類を作り、担当者に提出する。前任者は彼に仕事を引き継いだ後に行方不明となるが……。

「夜の求愛」:花屋のキムは、疎遠になっていた友人から共通の知人が死の床にあると知らされ、葬儀のための花輪の注文を受ける。死を待つようにして、キムは花輪を葬儀場に届ける。が、知人はまだ亡くならない。その連絡を待つが、来ない。キムは女との夕食の約束を思い出し、女に電話をかける。知人の死をじりじりと待つ間に、キムの女への感情は揺らめいて…。

「少年易老」: 13歳のユジュンの父は工場経営者。病のために腹水がたまり、体から薬の匂いがする。ユジュンの唯一の友達ソジンはユジュンのお屋敷によく泊まった。ある日ソジンは、ユジュンの家にこっそり入り、書斎の鍵のかかった引き出しを見つけ、ユジュンの父の秘密を想像する。少年たちは秘密が放つ死の匂いにだんだんと浸されて……。

 

韓国の女性作家の短編集を立て続けに読んでいるのだが、これはかなりひんやりした印象。
ここに描かれる人たちの孤独、閉塞感、分かり合えなさはなんなのだろう。
毎日同じことの繰り返しで自分の感情や存在が埋没していく。付き合ってる恋人に疎ましさを感じ、同じ応答しかしない職場の担当者に物足りなさを感じながらも、身動きができない。しかし確実に危機や破滅は後ろから迫ってきている。
恐ろしかったのはこれが結構見に覚えのある感覚だったこと。

「ウサギの墓」はうさぎを愛する身としては耐え難い作品だった。うさぎの糞は臭くないのよ…。そしてうさぎを公園に棄てるのは殺すのとなんら違いはないよ。
拾われて一時的に飼われてまた棄てられるうさぎは、人間性や個性を殺し、誰でも代わりになりうる状態で働く人たちの象徴なのだとは思うが、しんどかった。


「少年易老」は少年たちの友情(多少の打算は含みつつ)を親や社会の不条理が引き裂いていくのがなんとも不気味でホラーだった。

好きか嫌いかでいうと好きな作風ではないのだが、惹きつけられる。
ほんとに今、韓国文学が熱い。読まずにいられない。