りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

あれも凌鶴、これも凌鶴 第5回

7/13(土)、道楽亭で行われた「あれも凌鶴、これも凌鶴 第5回」に行ってきた。

・凌鶴「蒲生三勇士~村上大助誕生」
・凌天「一休禅師鍵屋の棟札」
・凌鶴「前田長吉」
~仲入り~
・凌天「安宅郷右衛門」
・凌鶴「お掃除ホームレス」


凌鶴先生「蒲生三勇士~村上大助誕生」
初めて聴く話。
小田原城下に、松井祐太夫という男が剣術を教えて暮らしている。
松井が下男の伴助に「自分は家宝になるような刀を手に入れたいと思っている」と相談すると伴助は「それならばこの小田原に安井四郎清兼という刀鍛冶の名人がいるからその人に作ってもらったりいいのではないか」と答える。
「しかし安井は大変な偏屈で変人。それにもってきて先生(松井)も偏屈で変人。変人対変人の対決になるとまとまる話もまとまりません。ですから先生、安井の所へ行ったらくれぐれもいつものように短気を起こすことはありませんぬよう」と言う伴助に「わかっとるわかっとる!」と松井。

二人で安井宅を訪ねると、今家には自分一人しかいないから勝手にあがってこい、と安井。
安井を前にして、松井が丁寧に「刀を作っていただきたい」と頭を下げると、「(自分は)商売で刀を作っているのだから頭を下げる必要はない」と早速偏屈らしい反応。
刀を作ってもらいたい松井は平身低頭でどうにか機嫌を損ねないように刀を作ってもらう承諾を得る。
しかしその刀、いつできるのかもいくらになるかも分からないと言う。自分の気が乗れば数日でできるし気が乗らなければ何か月もかかる。費用もできた刀次第であるからわからない。
それでも結構ですと言って帰って来た松井だが、20日ほどすると刀はどれぐらいできているのか気になって仕方ない。
それで伴助に探りに行かせると、安井は「あと20日ほどかかる」と言う。
それでまた20日経ってから二人で行ってみると、刀は完成したと言う。
300両用意した松井が値段を尋ねると「30両でよい」と言う。大喜びの松井が「その刀は斬れるのでしょうな」と問うと、安井は顔色を変えて丸太をスパッと斬り落とし、「斬れない刀を作るわけがないではないか」と言い、刀を取り上げて30両を返し、二人を追い返してしまう。
ああ、しまった、しくじったと後悔しても後の祭り。
どうしてもあの刀を諦めきれない松井は、安井家に出入りしている酒屋の六兵衛を呼びつけて、安井が個人的に欲しがっているものはないのか、と尋ねる。
すると六兵衛は「安井は女房を欲しがっています」と言う。
器量なんかはどうでもいい、とにかく力持ちで、重い槌を持ち上げられるような女がいい、と。
それを聞いた松井は、自分には妹がいるが、これが器量は良くないが大変な力持ちなのだ、と言う。
呼ばれて出てきた妹が…。

 

松井家に仕える伴助が明るく軽くてとても楽しい。
松井とのやりとりも主人を恐れるようなところがまったくなく「先生も変人」とか「変人対決はあちらの方が上でしたな」とか軽口を叩くのがおかしい。
様子を見に行けと言われて酒を催促するのも、またそれを安井に見透かされるのもおかしい。
妹がどしーんどしーんと音を立てて登場するのもおかしいのだが、これゆえ今ではあまりされなくなったのだろう、とのこと。
凌鶴先生は古典もいいんだよなぁ。そういえば私が初めて凌鶴先生を見た時も古典だったな。
楽しかった~。

 

凌鶴先生「前田長吉」
伝説の騎手、前田長吉の半生を描いた新作講談。
もともと農家の倅で馬の扱いに長けていた長吉が上京して厩舎に入り見習い騎手となる。
デビュー戦でいきなり優勝し、その後も自分の厩舎以外の馬も乗りこなし、見習い騎手1年目にして見事な成績をおさめる。
その後、自厩舎のクリフジという牝馬に乗るようになり、デビュー戦から快勝、東京優駿では優勝を果たし最年少優勝記録を残す。
見習いから正規の騎手になれたのもつかの間、長吉は徴兵されて戦争へ。その後シベリヤに抑留される…。

…目覚ましい活躍をした騎手が徴兵によって馬に乗ることができなくなってしまうなんて本当に悲しい。生きていたらその後どれだけの功績を残したかわからないのに。
クリフジが優勝した後、ウォッカが優勝するまでの間の馬の名前の言い立ては…うーん、すごい記憶力。私のせいで気を散らせてはいけないと目のやり場に困ってしまった(笑)。

凌鶴先生「お掃除ホームレス」
タイトルを聞いて以来ずっと聞きたいと思っていた話。
南武線谷保駅の周辺で暮らすホームレスのサトウさん。ある日、タクシーの運転手に「ここらへんの掃除してみたら?」と声をかけられ、ちょっとやってみる。次の日もやってその次の日もやって…最初のうちはそれほど気もない感じだったのが、毎日箒と塵取りで熱心に掃除を続けるうちに、そこを通る人の中でサトウさんに話しかけたり、寒い日は缶コーヒーを、暑い日には冷たい飲み物を差し入れたりする人が出てくる。
その中には役所に行って生活保護をもらう手続きを勧める人もいたけれど、サトウさんは役所に対する不信感が強く応じない。
また学校の先生でサトウさんにいろいろな話を聞く中で、サトウさんには新潟に弟がいることを聞き出し、また記憶障害があることにも気づき…。

…凌鶴先生の新作講談には見ず知らずの人に手を差し伸べる人が出てくる話がいくつかあるけど、こういう話を聞くと本当にそういう優しさはなくしちゃいけないなぁ…と思う。
もともとは仕事をしていたのに体を壊して仕事を続けられなくなったり、支援施設の中で喧嘩をしてそこにいられなくなったり…そういうことで家を失ってしまうことは決して他人ごとではない。

声高に訴えるのではなく、ユーモアもある優しい講談で語ることで、より柔らかい気持ちで受け止めることができるように思う。
素晴らしかった!