何もかも憂鬱な夜に
★★★★
施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。
施設で育った刑務官の「僕」、夫婦を刺殺して死刑判決が出ている山井、そして「僕」の親友で自殺した真下。
とても重いテーマな上に、「僕」自身も自殺した真下や山井の気持ちに寄り添いすぎて、自分を見失いそうな危うさがあって、読んでいてしんどかった。
思春期の混沌は誰にでもあるものだと思うけれど、感受性が豊かすぎたり、支えてくれる大人がいなかったら、真下や山井のように極端な行動に走ってしまうこともあるのかもしれない。
危うい方向に走り出しそうに見えた「僕」が恩師とのやりとりを思い出して山井に対峙する場面がよかった。
作者は文学や音楽、芸術の力を信じているのだなと感じたし、そこに救いを感じた。