りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

柳家小三治独演会 松戸市民会館

8/18(土)、松戸市民会館で行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。


・一琴「道灌」
小三治「転宅」
~仲入り~
小三治「長短」


小三治師匠「転宅」
ほとんどまくらなしで「虎は死して皮を留め人は死して名を残す」と始まったので、おおっ!「出来心」の通しか?はたまた「転宅」か?!と思う小三治ファン。

「墓を残す」というのも人間の名前を残したいという気持ちのあらわれですね。でも墓なんて火山が噴火したら一発でなくなってしまう。そんなものを大事に残すより、人の心に残った方がいい。せめて家族だけでも覚えていてくれたら…。
石川五右衛門は何を盗んで有名になったんでしょう?御存じの方いますか?いたらここに出てきて教えてください。
何を盗んで…じゃなく、豊臣秀吉の寝首をかこうとして捕まって釜ゆでの刑になったので有名になった。
釜ゆでなんてねぇ…ひどいことするじゃないですか。私がもし秀吉だったら…。まぁ私が秀吉であるはずがないんですが…五右衛門に対して…。
あ、今頭の中で「もう少し思いやりを」と思って、でも五右衛門に思いやりをっていうのも変かなと思って変な間があいちゃった。こんなことをあれこれ考えちゃうから私の話は長くなる…。

…落語のまくらを話しながら脱線していくって新しいパターン(笑)。

そんなまくらから「転宅」。
この日は私3列目のど真ん中でほんとに師匠の真ん前。ご褒美のような神席で、表情の一つ一つ、しぐさの一つ一つがつぶさに見られて、いつも以上に引き込まれた。

お菊と旦那の様子を横目で見ながら家に入り込んだ泥棒が、さっきまで旦那のいた部屋に入って、本気で悔しがる。
あんなじじいがあんないい女を囲ってこんなうまい酒を飲んでるのか。ああ、うまい。ああ、くやしい。じじいって言ったって真のじじい、相当なじじいじゃねぇか!
小鉢のなにかわからないもの(ぬた?)を食べて、なんだこれ、なんかわからないけどうまい。いつもこんなうまいものを食ってるのかね、くやしいね。…うまい…!!

…最初から泥棒は素だけど、お菊さんの方は全然素じゃない。その対比が面白い。

お菊さんに「おまえさん」と呼ばれてとろける泥棒のかわいらしさ。
鼻の下を伸ばして「泊まってく」と言うおめでたさ。

次の日の顛末は、ほんとに泥棒が気の毒で。思い出しては笑ってるタバコ屋のおかみさんの姿も浮かんできて、とってものんき。
楽しかった。

小三治師匠「長短」
昨年は申し訳ありませんでした、と頭を下げた小三治師匠。
そうだ。昨年もこちらの会のチケット取っていたけど、小三治師匠が入院して中止になったのだった。
ありがたいことに2年先までスケジュールが決まっているけど、自分はチケットのことなんかは全く知らないので、いつぐらいから売り出すのか、今回中止になってお客さんはどうやって払い戻したのかあるいは払い戻せなかったのかもよくわからない。
それでもほんとにご迷惑をかけてしまったので、もうお聞きになっているかもしれないけど、顛末をかいつまんで…。
1席目にやった「転宅」、あれには飲んだり食ったりする場面がありますね。あれが手術前はできなくなってました。なんていったって、お茶を飲むのに右手をこうやって横に伸ばすことができない。だから食べるしぐさもできなくなって、そういうしぐさの入る噺はできなくなりました。
長年通っている大学病院で手術をする予定でいたんですが、いつもは私のことなど無関心な次女が珍しく「この先生に診てもらって!」と泣いて頼むんですね。
お前は何を言ってるんだ。もうスケジュールも決まってるし迷惑かけることになるからそんなことはできないって最初は言ったんですけど、ほんとにもうこれだけは一生のお願いだからそうしてくれ、と言われて…あーじゃぁわかったよ、ってことになったんです。
そこの病院がどこなんだか、とかいうのは問い合わせされても私は教えません。小さい病院だし、その人に合うかどうかもわからないから。
でも私に関して言えば…もう今はこんな風に自由に動かせるようになりました。

前にも聞いた、手術の次の日から「外を歩いてこい」と言われて歩いたこと、三千院に行ったこと、橋で同級生の女の子に会ったこと、とらや本店、なんかの話をあれこれ。
そして自分が通ってる大学病院でもう30年来の付き合いの病院関係者に「頸椎の手術をした人を何名も見てきたけど、あなたほど回復した例を知らない」と言われたこと。
それだけの大手術を成功させた先生だけど、小三治師匠がそれを神様のようにあがめてないところが、とても師匠らしくて面白いなぁ…と思った。もちろんとても感謝しているんだと思うけど、だからってそれを奇跡のように…神のように言いたくない、という気持ち、なんか少しわかるような気がする。そしてそれでこそ小三治師匠だなぁ、と思う。

これだけ迷惑をかけてそして大手術をして戻って来たのだから、あいつは元気になった、芸が良くなったと言われるように頑張ります、と言って、会場から拍手が起きると、やめてくれ、のしぐさ。
でもほんとに今年の小三治師匠はとても元気に見えるし、そんな師匠の高座を見られるのは本当に幸せだなぁ…としみじみ。

そんなまくらから「長短」。
今回はほんとにいい席だったので一つ一つの表情をたっぷり。長さんののんびりとした悪気のなさとそれにイライラする短さん。でもイライラしながらも仲の良さが伝わってくる。
これだけ長い付き合いでいつもガミガミ言われてるのにそれでも短さんにおこられたくないと言う長さんが面白いなぁ。
楽しかった。これだから遠くても席が良くなくても来なくちゃいけない。小三治師匠の会は。