十三の物語
★★★★
匠の技巧が存分に発揮された、粒ぞろいの短篇集。アニメ『トムとジェリー』をありえないほど緻密にした「猫と鼠」から、“もう一人のエジソン”が開発した「触覚機」をめぐる実験日記「ウェストオレンジの魔術師」まで、老いてますます冴える短篇の名手による十三篇を収録。
影が薄い人間がどんどん薄くなりすぎて消滅したり、細部にこだわるあまりなにも見えない状態にまでいってしまったり。露出の反動で隠蔽に走ったファッションが突き詰めた先にあったのは…。天に届くほど高い塔を作った先に待っていたのは…。
ミルハウザーって絶対変態だわーと思いながらも妙に府に落ちるところがあって、でも分かったつもりでいるとまた遠くに突き放されたり。何冊読んでも一定の距離以上近づけないのがミルハウザーの魅力であり大好きと言い切れないところでもある。
このよそよそしさが面白い。