りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

八光亭春輔独演会

4/26(木)、赤坂会館で行われた「八光亭春輔独演会」に行ってきた。
寄席で見ていて大好きになった師匠。独特の語り口で「権兵衛狸」や「ぞろぞろ」をやってかっぽれを踊って去って行くようすのかっこいいこと。
寄席でトリをとったりはしないのかなぁと思っていたらこんな会があったので前売りを買って楽しみにしていたんだけど。
会場はディープな落語ファンの方でいっぱいでものすごい期待感。みんな考えることは同じなのね。うひゃー。


・あお馬「出来心」
・春輔「かつぎや」
~仲入り~
・春輔「文七元結


・あお馬さん「出来心」
前座になって4年目。一番うれしいことは師匠方に名前を憶えていただけるようになってきたこと。
入りたての頃は師匠方から「おい!」とか「前座!」と呼ばれていたのが、このごろでは「あお馬さん」と呼んでいただける。これがなにより嬉しい。
この間も街を歩いていたら遠くの方で私に気づいたとある師匠が大きな声で「あお馬さん!」と呼んでくださった。
私がはっと気づいて振り向いたら、近くにいた中年の女性も同じように振り向いて、あれ?なんでかな?と思ったら、「あ、おばさん…」。

あお馬さんがまくらふるの初めて見たなー。面白い!

そんなまくらから泥棒の小咄。頭のいい泥棒がいて…という小咄は初めて聞いたけど面白かった。
小咄で思わず笑ってしまうのは、喋り方…リズムとか抑揚とか間、なんだよなぁ。
小咄を聞いただけで、この人面白い!って期待しちゃう。

「出来心」、とっても面白かった。
あお馬さん、どんどんうまくなるなぁ。
うまくなってるだけじゃなくて、なにかこう楽しさが湧き上がってくる感じ。ニツ目になったら見に行きたい前座さんだな。


春輔師匠「かつぎや」
今日のこの会、プロデューサーの方がいらっしゃるから、いつも自分がやってる会とは趣が違う。
ちゃんと人数が集まるのかしらと心配していて、よっぽど電話して聞いてみようかと思ったんですけど、これがいい方の人数ならいいですけど悪い方だったら…と思うとなかなか決心がつかず。そうこうしているうちにプロデューサーの方の方からお電話いただきまして、「とっても評判がいいので次回7月5日で予定組んでもよろしいでしょうか」と。
とっても評判がいいって…私まだ一言も噺をしていないんですよ。

…わははははは!
でもこのお客さんの数とキラキラした期待に満ちたまなざし。
大勢の人がこういう会を「待ってました!」だったのがわかるよなぁ。

そんなまくらから「かつぎや」。
縁起を担ぐ呉服屋の大旦那。
正月ともなるといつにも増して縁起にこだわる。
井戸で水を汲むのも正月だからおめでたい歌を詠み「お年玉」と唱えてダイダイを井戸へ落とせ、と飯炊きの権助に教える。
権助は井戸へ向かいながら「あの旦那はほんとにいつも縁起を担いでくだらねぇことをちまちま言って。あれじゃ(先は)長くはねぇな」とぶつぶつ。
ぶつくさ言ってたら教えられた歌の文句を忘れちまっただと、うろ覚えでとっても縁起の悪い歌を詠んで「お年玉」のところも「お人魂」。

それを聞いて旦那が権助を叱っていると、雑煮の支度が出来て奉公人がみな旦那を待っていると言われる。
座敷に行くと、番頭の食べていた雑煮から釘が出て旦那は「正月早々」と怒るのだが、番頭が旦那が喜ぶように「これはいいしるしです。(当家が)金持ちになるということでしょう」と言うと、大喜びの旦那。
それをほかの者が「ご機嫌とりやがって」「釘から餅が出たなら金持ちだけど、餅から釘が出たんだから(当家は)もちかねる、だろう」とぶつくさいうのがおかしい。

餅が大好きな定吉が女中に雑煮に餅をたくさん入れてくれと頼んだのに1個しか入ってなくてぶつくさ。
なんだよ芋ばかりはいってる。芋なんかいつでも食えるのに。
食べてるうちに泣き出して、旦那が尋ねると、「うちのじいちゃんは餅を喉に詰まらせて死んだから、餅を食べてるとじいちゃんを思い出す」に大笑い。

それから年始の挨拶にきた客の名前を読み上げるくだり。
屋号と名前をくっつけて短くして言えと言われると、「ゆかん」「せきとう」等縁起の悪い言葉ばかり言う店の者。
旦那が「なんだ?どなただ?」と聞いては「…そりゃ、ゆかんだな…確かに」「そりゃ…せきとうだな…」といちいち納得するのがおかしい。
ここでも番頭が「つるかめ」とおめでたく締めて、「それにしてもなんで最初は縁起が悪い名前が続いたのだ」と聞くと、店の者が「縁起のわるいやつを寄って言った」というばかばかしさ。

また訪ねてきた友だち。これが早桶屋。
あいつはわざと縁起の悪いことばかり言うから嫌なんだと言って旦那が隠れると、それをかさにさらに縁起の悪いことを言うので仕方なく出てくる旦那。
この二人のやりとりがとても楽しい。
なんだかんだ言いながら仲がいいのが伝わってくる。
そして最後にお前を喜ばせてやる!と言って縁起のいいことを言った…と見せかけて…というのも面白い。

二日目は初夢を見るために船屋を呼ぶんだけど、最初に呼ばれてきた船屋がもう辛気臭くて物貰いに近い風情。
「しの字」嫌いの旦那に「四文」「四十文」と言い、縁起の悪いことや景気の悪いことばかり言うのがおかしい。
次に呼んだ船屋は若い衆に耳打ちされてから来たので縁起のいいことを言い募る。

こんな風にたっぷり聞いたのは初めて。
この噺って、縁起のいいことを言ったり、悪いことを言ったり、またいいことを言ったり…という繰り返しなんだね。
どちらか一方しか聞いたことがなかったから、縁起がいいばっかりだと飽きてくるし、縁起が悪いことばっかりだと「正月からこんな噺?」と思ってたけど、こうやって上げたり下げたりするの、すごく楽しい。
それも春輔師匠の独特の語りのリズムと抑揚に引き込まれて、聞いてる方はどんどん乗せられていく感じ。
こんな噺がこんなに面白いなんて、びっくりだ。

 

春輔師匠「文七元結
今まで聞いた誰の「文七元結」とも違う。
セリフが七五調でお芝居のよう。でも人物はあくまでの落語の中の人物で、もってまわった物言いが芝居調。
これはなんなんだろう。先代の彦六師匠ってこんな感じだったのか?そういえば正雀師匠も結構芝居調子だけど、そういう一門なんだろうか(なんとなくのイメージ)。

長兵衛が腕のいい職人でもともと博打を打つような人間じゃなくて、誘われてやってみたら大損をして、それを取り返そうとしているうちにずぶずぶになってしまった、というのが伝わってくる。
着物を着換えてから出かけようとしたり、こんな格好じゃ表からは入れないなと逡巡したり、久しぶりに顔をあわせた女中にお世辞を言ったり、娘の格好を恥ずかしがったり…見栄っ張りの江戸っ子なんだなぁ。
おかみさんに娘に礼を言えと言われて、そんなことできるか!と突っぱねるのも、長兵衛が本来は一家の大黒柱だったことをうかがわせるなぁ。

文七を助けて話を聞いて、長兵衛が文七が正直者だからその了見に惚れた、と言って「娘を女郎にすることに決めた」ときっぱり言うのには驚いた。
一度お金をやると決めたらぐずぐずしないで潔くお金を放り投げて逃げていくところも、なんかこの長兵衛という人の人柄が出ている感じ。

店の旦那がとても品があって、言葉少ないけれど奉公人を大切にしていることが伝わってくる。
夫婦喧嘩の声をたよりに行けばわかると言われて行ってみると、ほんとに大声でけんかをしているのがおかしい。
外から声をかけられると、みっともねぇ!とおかみさんを必死になって隠すのも、見栄っ張りらしくてほほえましい。

お金のやりとりがしつこくなくて好きだな。
大旦那から「頼みたいことがあります」と言われて「壁を塗りますか?」とすぐに聞いたのがおかしかった~。
大旦那から親戚づきあいを言われたとき長兵衛が遠慮するより先に「ありがてぇ」って言うの、よかったなぁ。

最初から最後まですごい吸引力で引き込まれて夢中になって聞いた。
ふだんはあんまり好きな噺じゃないのに驚くほどよかった。

いやぁこの会は行ってよかった。すばらしかった。
終わった後の拍手の大きさが、この場にいたお客さんの気持ちを表していたと思う。