りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

楽しい夜

楽しい夜

楽しい夜

★★★★★

メキシコの空港での姉妹の再会を異様な迫力で描いた、没後十余年を経て再注目の作家による「火事」(ルシア・ベルリン)、一家に起きた不気味な出来事を描く「家族」(ブレット・ロット)。アリの巣を体内に持つ女という思い切り変な設定でありつつはかなげな余韻が美しい「アリの巣」(アリッサ・ナッティング)、30代女子会の話と思いきや、意外な展開が胸をつく表題作「楽しい夜」(ジェームズ・ソルター)。飛行機で大スターの隣に乗り合わせてもらった電話番号の紙切れ…チャーミングでせつない「ロイ・スパイヴィ」(ミランダ・ジュライ)など、選りすぐりの11編です。

【収録作品】
「ノース・オブ」マリー=ヘレン・ベルティーノ
「火事」ルシア・ベルリン
「ロイ・スパイヴィ」ミランダ・ジュライ
「赤いリボン」ジョージ・ソーンダーズ
「アリの巣」アリッサ・ナッティング
「亡骸スモーカー」アリッサ・ナッティング
「家族」ブレット・ロット
「楽しい夜」ジェームズ・ソルター
「テオ」デイヴ・エガーズ
「三角形」エレン・クレイジャズ
「安全航海」ラモーナ・オースベル

「ロイ・スパイヴィ」ミランダ・ジュライ
やっぱりミランダ・ジュライはいいなぁ。
たまたま飛行機で有名俳優ロイ・スパイヴィ(実名に近い仮名らしい)の隣の席に座った「わたし」。
2時間の間ぶっ続けで喋り通し別れ際にプライベートの電話番号を渡される。
最後の1ケタだけ書いてなくてそれ(「4」)はそらで覚えておいてほしいと言われる。
その後の人生で何度もこの番号(「4」の方)を使うわたし。それは心の支えであり開かれたかもしれない扉の暗号でもあったのか。
どれだけこの番号にかけたかったか。でもどうしてもかけられなかった。その気持ちが痛いほどわかる。
ミランダの文章と岸本さんの翻訳が合ってるんだろうなぁ。特に最後の一文には痺れた。

「赤いリボン」ジョージ・ソーンダーズ
不穏でグロテスクなのにしんみり悲しい。ものすごく悲しいのにちょっとおかしい。

「アリの巣」アリッサ・ナッティング
これはいかにも「変愛小説」に収められそうな一編。怖おもしろい。

「楽しい夜」ジェームズ・ソルター
これもいいなぁ。いかにもありがちな女子会。ルックスはいいけど中身がすかすかに見えた主人公がタクシー運転手に漏らす一言に、それまでのお気楽な世界観ががらりと反転する。見事。

「安全航海」ラモーナ・オースベル
これが最後に収められているのがナイス。
死へ旅立つ時も女たちはしたたかに力強い。

何か意図があって組まれたものではないようだけど絶妙のセレクションでさすがだ。いかにもな「アリの巣」や「三角形」も良かったし「赤いリボン」もよかった。「安全航路」はどこかで読んだ覚えがあるんだけどなんだったっけ。いずれにしても岸本アンソロジーにハズレなし。