りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

美しき廃墟

美しき廃墟

美しき廃墟

★★★★★

あの出逢いは、永遠に続く一瞬のはじまりだった――
海辺の小さな村ポルト・ヴェルゴーニャの埠頭に新人女優が降り立つ。映画『クレオパトラ』の出演者がなぜこんなところに? 60年代イタリアと現代アメリカを舞台に、果てなき夢を抱いた老若男女の愛と人生が、時と場所を超えて交錯し、笑いと哀感に溢れた物語の輪を広げてゆく。全米を席巻したベストセラー小説登場!

素晴らしかった。久しぶりに寝食忘れて夢中になって読んだ。

イタリアの海辺の小さな村ポルト・ヴェルゴーニャで父親から小さなホテルを譲り受けた青年パスクアーレ
パスクアーレはこの見捨てられたような村のホテルをどうにかしよう、アメリカ人の観光客でいっぱいにしようという父親の遺志を引き継ぎ、岩だらけの海岸を「ビーチ」にしようと奮闘したり、写真でしか見たことのない「テニスコート」を作ろうとして、村の人たちの笑いものになっている。
そんな彼のホテルに、映画「クレオパトラ」に出演したという新人女優ディー・モーレイが泊まりにやってくる。
一目で恋に落ちたパスクアーレは片言の英語で彼女と話しをしただけで夢見心地なのだが、ディーは病に冒されていたのだった…。

二章ではいきなり舞台は現代(「最近」としてある)のハリウッドに飛ぶ。
やり手ノプロデューサーのマイケル・ディーンの元、彼への売り込みに来た企画をさばく役目を仰せつかっているのがクレア・シルヴァー。素晴らしい映画を作ることを夢見てマイケルのもとで働くクレアなのだが、マイケルは最近すっかり映画製作から足が遠のき、下世話な番組で当たりをだしてしまったばっかりに、飛び込んでくる企画はおなじようなバカバカしい下世話なものばかり。
こんなことならいっそ転職してしまうかと悩んでいる。

イタリアの片田舎で芽生える小さなロマンス、一方アメリカのショービジネス界ではスキャンダルさえ商売にして強かに生きている人たち。
この二つの物語がどう交差していくのか、最初は戸惑いながら読んでいたのだが、過去と現在が交互に語られ、様々な登場人物がそれぞれの視点から物語り、さらに私の大好きな物語中物語も魅力的で、楽しい楽しい。

ばらばらに思えた物語が、後半になって見事に回収されていく爽快さ。
イタリアのパートはロマンティックで美しく、アメリカのパートはブラックな笑いに満ちていて、この物語自体が壮大な映画のような作りになっている。

素敵すぎる表紙と文学的なタイトルに恐れるなかれ。
物語を読む楽しさに溢れた素晴らしい作品だ。