りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

小説現代新人賞全作品<3>

★★★★★

有明夏夫「FL無宿のテーマ」のみ読了。
なにこれめちゃくちゃ面白い!
凝りに凝った文章で大真面目に語られるのは、大学生の卒論を本人にかわって書いてやるというアコギな商売に手を染める男二人。
共同便所の悪臭に悶えるような暮らしをしながらもその語りはどこまでもバカバカしく明るい。

そこで私としては、せめてもの気やすめに、防空壕程度のものでも避難策を講ぜざるを得ず、なんとか便所のドアだけでもしめて頂きたいと念じて、スーパーマーケットのチラシの裏紙に「必ずしめて下さい」と黒々と大書して貼り出し、ヴィッテンベルク協会の扉に「九五カ条の提題」を掲げたマルチン・ルターの心境で、結果は如何にと見守ったのだが、宗教改革のきざしはまるで見られず、歴史どころか、トイレのドア一つ動かすのも並大抵のことではないという、厳然たる事実を悟っただけであった。

トイレのドアをしめてほしくて貼り紙をして「宗教改革のきざし」って…。
文章が素晴らしいだけに描かれている内容のバカバカしさが際立っておかしくてしょうがない。
それでも悪ふざけという感じはまったくなくて、そこはかとなく哀しみも漂っていて、かといって自虐に終始しているわけでもない。

比喩の一つ一つに文学部の哀しみが満ちていて素晴らしい。楽しかった。