りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

死にたくなったら電話して

死にたくなったら電話して

死にたくなったら電話して

★★★★

「死にたくなったら電話して下さい。いつでも。」
空っぽな日々を送る浪人生・徳山は、ある日バイトの同僚に連れられて十三のキャバクラを訪れる。そこで出会ったナンバーワンキャバ嬢・初美から、携帯番号と謎のメッセージを渡され、猛烈なアプローチを怪しむも、気がつけば、他のことは何もかもどうでもいいほど彼女の虜に。殺人・残酷・猟奇・拷問・残虐……初美が膨大な知識量と記憶力で恍惚と語る「世界の残虐史」を聞きながらの異様なセックスに溺れた徳山は、やがて厭世的な彼女の思考に浸食され、次々と外部との関係を切断していき――。ひとりの男が、死神のような女から無意識に引き出される、破滅への欲望。
全選考委員が絶賛した圧倒的な筆力で、文学と人類に激震をもたらす、現代の「心中もの」登場!
第51回文藝賞受賞作。

3浪中の徳山が、バイト先の同僚に連れて行かれた十三のキャバクラ。
NO1キャバ嬢の初美は、初対面の徳山を前に狂ったように笑い転げる。
いたたまれなくなる徳山やあきれる他のキャバ嬢や初美目当ての日浦が不機嫌になっても意に介さず狂ったように笑う初美。
このシーンがその後の物語を予見させるようで、なんとも薄気味悪い。
初美と徳山の関係は、ちょうどいい空っぽな木を見つけた害虫が寄生して自分の病気をうつして一緒に滅びていく。そんな感じがする。

毒にしか感じられなかった居酒屋のバイト仲間や先輩も、浪人時代の先輩も、徳山の一部であったことには変わりなく、全てを捨ててしまえば本当のからっぽになってしまう。
徳山を助けようと形岡が送ってきたメールに透けて見える本当と嘘。
助けたい気持ちは本当だけど、「仲間」「友だち」そんな言葉には多少の嘘も含まれている。
初美が徳山に語って聞かせる世界中の残虐な出来事は実際に起こったことで、人間はそれほどまでに残虐になりうる存在であることは間違いないけれど、それが人間のすべてではないはず。
きれいごともきたなごともどちらも本当でどちらも嘘。
時にはきれいごとを言って夢を見て、時には絶望の淵を覗きこみ、よろよろとバランスを保ちながら前に進むことが、生きていくということじゃないのか。それが正しいか正しくないかは別として。

気持ちのいい物語ではないが、文章とリズムが良くてしつこくないので、心地よく読めてしまう。
車も買ったのに、という初美のつぶやきや、在日だから結婚はできないと言われ徳山が驚くシーンなど、些末に思える断片が妙にあとを引く。