りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

もっと厭な物語

★★★★

最悪の結末、不安な幕切れ、絶望の最終行。文豪・夏目漱石の不吉きわまりない掌編で幕を開ける「後味の悪い小説」アンソロジー。人間の恐布を追究する実験がもたらした凄惨な事件を描くC・バーカー「恐怖の探究」、寝室に幽閉される女性が陥る狂気を抉り出すC・P・ギルマンの名作「黄色い壁紙」他全十編。

面白かった!前作より好み。日本の作家もなかなかに厭な物語っぷり。
変愛小説もそうだけど、翻訳家ではあるけれど翻訳小説に限らず日本の作品も編んでくる岸本さんが素敵だ。
それぞれに「厭」なんだけど不思議と後味は悪くないのが不思議。

夏目漱石 「『夢十夜』 より 第三夜」
厭な物語の始まりは夏目漱石から。短いけれどやけにリアルでこれから始まる悪夢のような物語たちを予感させる。
これは落語に合いそう。喬太郎師匠がやる噺でこういうのなかったっけ。と自分のブログを検索してみたら小泉八雲作の「梅津忠兵衛」だった。
長いこと積んでいる「夢十夜」…読まなきゃ…。

エドワード・ケアリー「私の仕事の邪魔をする隣人たちに関する報告書」
語り手の作家が自分の住むアパーの隣人たちについての苦情を申し立てているのだけれど、語り手の孤独や狂気がじわじわと伝染してくる。ぞっとするなかに、ちょっと笑ってしまうようなユーモアもあってそこが好き。
語り手の孤独と繊細さがとても悲しい。

氷川瓏「乳母車」
冒頭の「夢十夜」を思わせる不気味さ。
怪談は日本のほうが圧倒的に怖い…。

シャーロット・パーキンズ・ギルマン「黄色い壁紙」
主人公の狂気が読んでる側にも伝染してくる。
黄色い壁紙も怖いし主人公も怖いけれど、妻のことを閉じ込めるだけの旦那の存在も気味が悪い。
鬱症状を悪化させるような物語で、調子の悪い時に読んだらほんとにおかしくなりそうだ。

スタンリイ・エリン「ロバート」
ぎょっとするような子どもの発言に対する自分の反応で徐々に追い詰められていく主人公の心理描写が非常に巧みでリアル。
あっと驚く結末にやられる。

草野唯雄「皮を剥ぐ」
厭度でいったらこれが一番。と思ったらあとがきにもそう書いてあった!
猟奇的な物語だが、単なる猟奇だけで終わらないのは、その当時の日本の貧しさや野蛮さが垣間見られるから。
貧しさや不平等感が人間の野蛮さをむき出しにさせる。

クライヴ・バーカー「恐怖の探究」
日本の作品がじっとりと絡み付いてくるような恐怖だとすると、こちらはじゃじゃじゃーん!と派手な恐怖。
ぎゃーーとなりながらもうここまでくると笑える、というところがミソか。

小川未明「赤い蝋燭と人魚」
これが「厭な物語」に入りますか、とちょっと驚いたのだが、確かにこうやって読むと厭な物語なのだな…。

ルイス・バジェット「著者謹呈」
あとがきのあとにこの作品をおさめてくるところが憎い。
最後のページを読んで思わずにやり。「もっともっと厭な物語」も出て欲しい。