りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ストーナー

ストーナー

ストーナー

★★★★★

半世紀前に刊行された小説が、いま、世界中に静かな熱狂を巻き起こしている。名翻訳家が命を賭して最期に訳した、“完璧に美しい小説”。

とても良かった。
読んだ人たちの感想を見て、これはきっとものすごく好みの小説だろうと予想はしていたけれど、期待にたがわぬ素晴らしく好みの小説だった。

貧しい農家の息子ストーナーが農業を勉強するために大学に入る。持ち前の勤勉さを発揮してコツコツ勉強し、実家に帰って農業に活かせるかもしれないというイメージを持っていたストーナーだったのだが、必須科目で受けた英文学の授業で衝撃を覚える。
それまで自分自身の内面に目を向けることもなかった無骨な青年が文学に触れ、初めて自分の孤独を意識し、一歩離れたところから他の大学生たちや教師を見るようになる。
そんな彼にも友人ができて友情を育むのだが、戦争が起きて友人ふたりは入隊しストーナー一人だけが大学に残る。強い信念があったから、というよりは、信念がなかったからこそそこに立ち尽くし外から見つめる方を選んだようにも感じられる。

不遇な目に遭っても黙って受け止めて動かない。
間違った相手と結婚をしてしまったことに気づいても何もしない。
しかしどうしても認められないことは周りの忠告も聞かず我を押し通す。
まわりとの軋轢から生きる世界がどんどん狭められていく様子を読むのは正直しんどくて、なんで放っておくのだ、なぜそこでだまってしまうのだ!と苛立ち、また逆に、それ以上頑張らないで譲歩すればいいのに!といたたまれない気持ちになる。

しかしそんなストーナーだからこそ、突然訪れたロマンスには、こういうことが彼の人生に起きてよかった…と思わずにはいられない。
正しい恋ではないけれど、お互いをさらけ出して分かり合うそんな瞬間を持つことができて、よかった…と思う。

時に歯痒いようなストーナーの生き方に寄り添うようにして読みすすめる時間が本当に至福だった。
静かだけれど凄みのある文章に、訳者である東江一紀さんのことも思わずにはいられなかった。
こんな地味な物語に読んだ人たちが皆同じように静かに深く感動しているのがまた嬉しくて、本を読む幸せをしみじみと感じたのだった。