りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

黒ヶ丘の上で

黒ヶ丘の上で

黒ヶ丘の上で

★★★★★

20世紀の到来と同時にウェールズイングランドの境界線上の家に生まれた双子の兄弟ルイスとベンジャミン。この村から一歩も出ないで二人は人生を送る。
二つの大戦も、技術革新による生活の変化も、同じベッドに眠る二人にとって遠い世界。
髪は枕カバーより真っ白になった80歳の誕生日、セスナに乗った双子は上空から自分たちの生きてきた「世界」を初めて眺める。そして……

名作『パタゴニア』で彗星の如く登場し圧倒的な筆力で多くの評価と読者を得ながら、わずか十年でこの世を去った伝説の作家チャトウィン
『黒ヶ丘の上で』はチャトウィンが遺した唯一の長編小説である。
没後25年にして、ようやく名訳で到来!

ウェールズの農場に暮らす双子の老人。
彼らの父親が物心つく頃から双子が揃って80歳を迎えるまでのほぼ100年間を綴る物語。

ウェールズの農場に生まれ育ち、その土地から一歩も出ることなく死んでいく人たち。
田舎の暮らしは平和で何事もないかと言ったらそんなことはない。

夫婦の確執、隣近所との土地争い、貧富の差、そして戦争。土地、子ども、誇り、信仰…。誰もが自分が守りたいものを守るために、時には暴力に訴えることも辞さないし、血で血を洗うような諍いや、無知ゆえに不衛生な環境で育ち病み衰えていく者もいる。

コツコツ積み上げていったものもいつかはなくなる。
離れられない双子の兄弟も死ぬときは一人。
苦いことの多い人生だけれども、憧れ続けたセスナの上から見た黒ヶ丘はどれ程美しかったか。
人間の織り成す決して美しくないドラマも全て洗い流すような壮大な自然を目に焼き付けて本を閉じる。
素晴らしい読後感。