りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

二度はゆけぬ町の地図

二度はゆけぬ町の地図 角川文庫

二度はゆけぬ町の地図 角川文庫

★★★★

中卒で家を出て以来、住み処を転々とし、日当仕事で糊口を凌いでいた17歳の北町貫多に一条の光が射した。夢想の日々と決別し、正式に女性とつきあうことになったのだ。人並みの男女交際をなし得るため、労働意欲に火のついた貫多は、月払いの酒屋の仕事に就く。だが、やがて貫多は店主の好意に反し前借り、遅刻、無断欠勤におよび……。(「貧窶の沼」より)夢想と買淫、逆恨みと後悔の青春の日々を描く私小説集。

相変わらずの酷さなのだが、嫌悪感よりも笑いがこみ上げてくる。
暴力沙汰で留置場に入れられた話が不釣り合いとも思える美しいタイトル「春は青いバスに乗って」なのにも驚くが、不思議とちょっと心暖まるところがまたおかしい。おかしいだけじゃなく、なにか物悲しくもなり、しかしなんというか生きていく力ももらえるというか、そこに文学を感じるというか…。 やはり西村賢太はすごい。とそう思ってしまうのである。

「腋臭風呂」の醜悪さと言ったら…。これだけ身勝手で短気な人物であるにも関わらず、腋臭を気にして一本三千円の薬を一週間で使いきっていた昔の知人への尊敬の念を思いだし、腋の臭い相手の苦悩に思いを馳せるのが、いじましくも可笑しい。
友達にはなりたくないが、ずっと書いていてほしい。そしてずっと読んでいきたい作家だ。