りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

東京自叙伝

東京自叙伝

東京自叙伝

★★★★★

明治維新から第2次世界大戦バブル崩壊から地下鉄サリン事件秋葉原通り魔殺人、福島第1原発事故まで、帝都トーキョウに暗躍した、謎の男の無責任一代記!史実の裏側に、滅亡する東京を予言する、一気読み必至の待望の長編小説!!

怪作。これをあの朗らかで紳士的でこざっぱりした奥泉さんが書いたのかと思うと、作家の想像力って凄いなぁと思わずにはいられない。

本作の主人公は東京の地霊。幕末から現在まで繰り返し誰かに憑依し東京を、ひいては日本を先頭に立って動かしていく。
上野彰義隊、陸軍参謀、やくざ…憑依した人間によって生い立ちや境遇、職業はさまざまだが、誰になったとしても道徳観念が欠如して人を人とも思わないところは共通している。実に嫌な奴なのだ。

しかし悪徳の権化のような主人公だが、深い意図があるわけでも悪意があるわけでもない。
火事に野次馬が群がるように、結局のところは祭りが好きで浮かれて騒ぎたいだけなのだ。あるのはエネルギーだけ。責任感もなければ正義感もない。そんな人間が政治の中心にいるのだからたまらない。しかしそう考えると、日本という国はずっとそうだったのかもしれない。今に始まったことではないのかもしれない、そんな気がしてくる。
戦争も原発も無差別殺人も深い考えや理由もなく、結局は暴れたい壊したい滅茶苦茶にしたいという衝動によるものなのか。

嫌な話だが能天気な明るさがあり、嫌だなぁと心がざわざわしながらも一気に読んでしまった。