りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

みなと毎月落語会 柳家小三治独演会

4/3(木)、赤坂区民センターホールで行われた「みなと毎月落語会 柳家小三治独演会」に行ってきた。
昨年は行けなかったこの会。この会の前にあった落語会を小三治師匠が体調不良でお休みされて本当に心配で…。みなと毎月落語会の方は無事に開催され、しかも自分の体調について小三治師匠が長々と語ったと聞いて、「話してくれるような状態でほんとうに良かった」と思ったのだった。
そんな思い出の(行ったわけじゃないけど)落語会。今回は良席もとれてほくほく。

初めて行くホールだったのでとにかくたどり着けるかが心配。
加齢とともに方向音痴に拍車がかかり、地図を持って行っても意味のない今日この頃。頼りになるのは駅の出口付近にある大きな地図。出口からどちらに向かって歩けばいいかというのがいつも分からないので、ここは念入りに確かめなければ。
印刷したホールの地図と駅の地図を見比べてどっちがどっちや?と地図をひっくり返して見ていたら「あの、小三治師匠ですか?」と声をかけてきた方が。「え、ええ…そうです」と答えると「私、昨年も来たので」とにっこり。い、一緒に連れて行って下さるとこうおっしゃってるのですか。うわーーん(涙)。

「落語お好きなんですか」と聞かれ「はい。特に小三治師匠が大好きで」というと「いいですよねぇ。小三治師匠。私、新潟から来てるんです」と。
え、えええ?小三治師匠を見るためにわざわざ新潟から?
「日帰りなんで、会が延びるとこまるんですよ。夜は結構時間通りに終わることが多いから比較的いいですけどね」

とにかくとても感じのいい方で、こんなに感じのいい人はうちの会社にはいないわっ!と思いながら、雨の中10分ほど歩いてホールに到着。
「ああ、よかった。迷わなくて。」
いえいえこちらこそ本当にありがとうございました。あの時声をかけてもらえなかったら、多分まだ地図とにらめっこをしていたのではないかと。
「それじゃ」と去り際も素敵に爽やかで、ぽ〜。うれしかった〜。

・こみち「たらちね」
小三治「出来心」
〜仲入〜
小三治「あくび指南」

こみちさん「たらちね」
わーい。今日もこみちさんだ。うれしい。
話し出したらあれ?マイクが入ってない?私は2列目の真ん中だったので全然聞こえるんだけど後ろの方は聞こえないでのは…。
「柳亭(りゅうてい)こみち」をよく間違われて「やなぎやこみち」と言われたり「やなぎていこみち」と言われることがある、というこみちさん。
東北で落語会があったとき、主催者の方がホールに電話をしていて「りゅうていこみちさん。りゅうてい!」と大きな声で繰り返していて、丁寧な方だなぁと思いながらホールに行ってみると控え室の入口に「ビューティこみち」と書かれていた、と。「ま、間違ってはいないんですけどね」に大笑い。

前座の頃に師匠に、「お客様にお金を払っていただいて芸を見ていただくんだから、安いところに住んじゃいけねぇ。芸が安くなる」と言われて無理して給金の2倍の家賃を払っていたというのも面白かった。 その後結婚して10万ちょっとのところに住んでいるんだけど、師匠には言えないなぁ…安くて…と思っていたらこの間聞かれてしまった。仕方なく正直に金額を言ったら「練馬ならもっと安いところもありそうだけどな」。
…おいっ!あの時のあれはなんだったんだ!と。

「たらちね」。言葉の丁寧さがこみちさんの丁寧は本当に品があって芝居のようなのでそれだけで面白い。
隣の人たちが「今年はこみちさんなのね。小三治師匠って一緒に回る人を結構年間で決めてるから」とおっしゃっていたけど、そうだったらうれしいなー。

小三治師匠「やかんなめ」
しゃべりだした小三治師匠。やっぱりマイクがおかしい?
「あのね。マイクが故障してるみたいなんですよ」。うわ、やっぱり…!

いつもはね、楽屋にモニターがあって音もよく聞こえるんです。それでそれを聞きながら、どういう話をしてるのかなぁとかどういうお客さんかなぁとかだったらどういう話をしようかなぁと考えるんです。そうです、みなさん、実は聴いてるだけじゃなくて聞かれているんです。観察されてるんです。
それがね、今日は何も聞こえない。まったく聞こえない。だからなにを話したのかも全然わからない。
なんでもね、このホールはリニューアルしたんですって。リニューアルしたらたいていはよくなるもんだけどねぇ。
仕方ないです。こういうこともあります。
でもね。私の声、後ろの方に…聞こえてますか?

「聞こえませんーー」と後ろの方から女の人の声。
うわーやっぱり。そうだよねぇ。ひー。

そうですか。でもね。ここで例えば声を張り上げて落語をやったとするとね、「こんにちはーーー」「おや、誰かと思えばはっつあんかい!いいからお上がり!」(大声)これはもう落語じゃなくなっちゃう。伝えるだけになっちゃうんです。
だから…聞いたのは失敗だった。聞こえますか、と聞いて、聞こえませんと答えたあなた、あなたは正しい!正しいです。
昔は寄席は空調なんかなかったからマイク無しでも大丈夫だったんです。でもいまはだめです。今もぶーんっていう音がしたり、いろんな音がしている。暗騒音っていうんですけどね。だからマイクなしじゃ無理なんです。
そのほかにも若い頃に寄席で一緒になった弁士の話など。
しみじみと面白いんだけど、後ろの方の人には聞こえないんだろうなぁと思うと、申し訳ないような気持ちに。

癪のまくらから「やかんなめ」。
大きな声ではやりませんと言っていたけど、やはりやりようが違っていて、ちょっとしたしぐさ、セリフ、体の動きで伝わりやすくなっている。凄いなぁ…。
女中、お武家様、家来の可内(べくない)、

噺が半分ぐらいまでいったところ、突然空調の音がぴたっと止んだ。そうしたら小三治師匠の声が深いところから聞こえてきた。なんか会場全体の一体感というか、稀有な空間がそこに出来上がっている感じがして、鳥肌。 もちろんいい環境で聴くに越したことはないんだけど、こういうトラブルがあるのもライブっていうか生物っていうか。この場にいられて良かった、としみじみ思った。

小三治「あくび指南」
マイクの調子が少しはよくなった感じ?
まくら短く「あくび指南」へ。それがいきなり小三治師匠がいなくなって目の前にくまさんとはっつぁんが!小三治師匠じゃないんだ。くまさんなんだよ、目の前にいるこの人が。ご機嫌で軽くておっちょこちょいなくまさん。
落語の何が好きってくまさんとはっつぁんとご隠居さんの会話なんだよなー。

小三治師匠の「あくび指南」の師匠がまたいいんだなぁ。ほんとにそこだけゆっくり時間が流れいるようで風流。
もう楽しくて幸せな時間だった〜。

やっぱり小三治師匠はいいなぁ。これほど追っかけ甲斐のある噺家さんはいないわ…ほんと。