写字室の旅
- 作者: ポールオースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/01/31
- メディア: 単行本
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彼はどこに行くのか。どこにいるのか――未来を巡る、新しいラビリンス・ノベル。奇妙な老人ミスター・ブランクが、奇妙な部屋にいる。部屋にあるものには、表面に白いテープが貼ってあって、活字体でひとつだけ単語が書かれている。テーブルには、テーブルという言葉。ランプには、ランプ。老人は何者か、何をしているのか……。かつてオースター作品に登場した人物が次々に登場する、不思議な自伝的作品。
一人の老人が部屋に閉じ込められている。老人はカメラで監視されていて、この物語を語る者からは「ミスターブランク」と呼ばれる。 自分がなぜこの部屋にいるのか、監禁されているのか、そうではないのか、自分は誰なのか、なにをした罪でここに入れられているのか、彼にはわからない。それどころか一日前の記憶もない。 部屋には白いテープが貼ってあってテーブルには「テーブル」、ランプには「ランプ」、壁には「壁」。そしてテーブルの上には手記と写真が置いてある。これは果たして誰が書いた手記なのかわからないのだが、どうやら彼に読ませるつもりで置いてあるらしい。
訪れる人たちは何らかのミッションを老人から与えられた過去を持っているらしい。 自分が彼らになにをしたのかなにをさせたのか老人は思い出すことができないが、ただ圧倒的な罪悪感だけはある。 読み進めるうちに、置いてある手記と老人の半生がシンクロしてきて、老人が政治的な何かに関わっていた?ような印象を受けるのだが…。
(以下ネタバレ)
オースターの小説は結構読んでいるけど、まるで気付かなかった。解説読んでびっくりした。 老人を訪ねてくる人たちはみなオースター作品の登場人物で、この老人が犯した罪というのは作家が登場人物を生み出してしまったこと?らしい。 老人に置いてある手記の続きを語ってくれとねだる男や見た夢を語ってくれと執拗に迫る男がいるのはそういうわけだったのか。 好きなように動かして翻弄した挙句中途半端に放り出した自分たちの人生に責任をとってくれ、と登場人物たちが作家に迫っているのか。 なるほどそう考えてみると、陰鬱に思えたこの物語もどこかユーモラスにも感じられる。
夢のなかだと身体が思うように動かなかったり当たり前のことが思い出せなかったりするけれど、そういう感じの不自由さ歯痒さがあった。 オースター作品をまた読み直して、その記憶が消えないうちにもう一度読みたい。でも一晩たったら忘れてしまうのかもしれない。ミスターブランクのように。