りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ポースケ

ポースケ

ポースケ

★★★★★

芥川賞受賞作「ポトスライムの舟」続篇。ヨシカが営む奈良のカフェに集まる7人の女性の群像劇。明日へ踏み出す勇気をくれる作品。

とてもよかった。「ポトスライムの舟」の続編ということだが、あの作品ではヒリヒリする痛みのようなものが前面に出ていて、津村さん自身がまだ自分の体験から抜け出せていないような感じがしたが、ここではその闇を抜け出たように感じた。津村さんの仕事観や人間観がはっきりと出ている。

悪意に満ちた人間に神経を小削げとられて動けなくなってしまった人。危険を本能的に察知して身をすくめる人。何も悩みのないように見える肝っ玉母さんにも悩みはあるしいろいろ気を使っている。
カフェ「ハタナカ」は場を提供しているだけで店主は客や友だちの悩みを聞くわけでもなく、集まる人たちもただごはんを食べるだけだったりパートに来たりするだけ。この距離感がとても津村さんらしい。
津村さんのエッセイに、自分が会社でパワハラにあってうつ状態になっていた時に、コンビニでいつも会う店員さんや掃除のおばさんに救われていた、ということが書いてあったのだが、「ハタナカ」はまさにそういう場所なのだろう。

人は一対一で悪意を正面から受けていたらひとたまりもない。そんなところで頑張る必要はない。そしてそこを逃げ出してきたからといって自分を責めたり自信をなくす必要などない。
「歩いて二分」「コップと意思力」の二篇からはそんなメッセージが聞こえてきた。

「亜矢子を助けたい」もよかった。
おそらく亜矢子側からみれば、お気楽でおせっかいで的をはずした母親の暑苦しい言動なのだろうが、これがハハゴコロってものなのだ。本当に自分の子どもが苦しんでいるとき、親って何もできないんだよなぁ…。それでもこの母の想いが凍りついた娘の心を溶かすことができたのだ、と思いたい。