りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

彼岸からの言葉

彼岸からの言葉 (新潮文庫)

彼岸からの言葉 (新潮文庫)

彼岸からの言葉

彼岸からの言葉

★★★★

彼岸――それは人間の隠された暗部。精神科の待合室で「俺は何ともないけど、家族が行け行けってうるさいんだよ」と繰り返す老人。最大級の飴を「でかいでしょ」と誇らしげに口に含み、「アグァアガガ」と苦しんで訴える人。断るときは「やめてちょ」、驚くと「びっくりしたな、もう」、お礼は「ありがたや、ありがたや」と来る言葉のダダ漏れ男。元祖脱力エッセイスト、伝説の最高傑作。

もうちょっと勘弁して…と顔を歪ませながら読んだ。確かにこれは電車で読んじゃイケマセン。
日常に潜む暗部を作者は「彼岸」と呼び、そこから発せられた言葉、そこへ誘う出来事を敏感にかぎ分けて切り取っていく。
なんていうと深遠な何かが描かれているようだが、そうではなく。発した瞬間に空気が変わる言葉や出来事を見逃さず、その面白さおかしさを分析したエッセイなのである。

慣れない人に会うとシャイになってしまう質の人間が出会ってしまった時の「彼岸のゾーン」

竹中は、机の上にある文房具に書かれた文字を、意味もなく声に出してよんだ。
「ボールペンテル細字、か」
その意味のない言葉が、ゾーンを支配するエネルギーに、さらに力を与えたような気がした。高平氏は、チケットと一緒に渡したチラシに目を移したが、少し読むと何を思ったか、反転させてチラシの裏側を見た。何も印刷されていない。
「まっ白なんだね」

茶碗を買いに小さな商店街の陶器の店に入ったとき。

皿の並ぶ棚と棚を仕切る柱に、小さな貼り紙があった。貼り紙にていねいに書かれたボールペンの文字があった。
「落とすと割れます」
私は、それから陶器製品に囲まれて、少しの間身動きができなかった。

こういう精神は決して古びることがないのだなぁ。
また、しりあがり寿氏のイラストの破壊力といったら。笑ったわ…。