りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

手紙

手紙 (新潮クレスト・ブックス)

手紙 (新潮クレスト・ブックス)

★★★★★

ワロージャは戦地へ赴き、恋人のサーシャは故郷に残る。手紙には、別離の悲しみ、初めて結ばれた夏の思い出、子供時代の記憶や家族のことが綴られる。だが、二人はそれぞれ別の時代を生きているのだ。サーシャは現代のモスクワに住み、ワロージャは1900年の中国でロシア兵として義和団事件の鎮圧に参加している。そして彼の戦死の知らせを受け取った後もなお、時代も場所も超えた二人の文通は続く。サーシャは失恋や結婚や流産、母の死など様々な困難を乗り越えて長い人生を歩み、ワロージャは戦場での苛酷な体験や少年の日の思い出やサーシャへの変わらぬ愛を綴る、二人が再び出会う日まで。

戦地へ赴いたワロージャと、故郷に残って彼の帰りを待つ恋人サーシャ。
ワロージャがサーシャに向けて書いた手紙と、サーシャがワロージャに向けて書いた手紙が交互につづられる。
二人は出会った時のことや幼い頃の思い出、家族のこと、お互いの未来、そして今自分が直面していることについて語る。

ワロージャは戦場での過酷な体験を赤裸々に綴る。そうすることで自分の精神の均衡を必死になって保とうとしている。
一方、サーシャのもとにはワロージャの戦死の知らせが届く。悲しみに暮れたサーシャはやがて別の出会いがあり甘やかな日々、そして苦しみがある。
戦死の知らせを受け取ったにもかかわらず、ワロージャの手紙は続く。二人の時間の流れはどうやら違っているようなのだ。

読んでいて、途中からなんだか泣けて泣けてしょうがなかった。
戦争で失われていく命。自分や他人の命を尊ぶという普段だったら当たり前のことが崩れてしまうこと。常に死と隣り合わせでいること。昨日まで一緒にふざけあっていた友だちの頭が目の前で吹っ飛び、野戦病院からは呻き声がやむことはない。
死の恐怖に怯えながらも、まだ生きているということを喜ぶ日々。

一方で平和な世界で暮らす恋人。
ワロージャの手紙を受け取ることなく、徐々に彼の存在を忘れ、懸命に生きていくサーシャ。しかしその暮らしは決して気楽なものではない。
出会った恋人には妻があり娘もいた。妻との間には愛情はないと言いながらもだからといって見捨てるわけにもいかないと言う恋人。
なかなか離婚しないで二人の間を妨害するかのような妻を読んでいて鬱陶しく感じたのだが、妻の側の物語を読むとまたそれはそれで気の毒で…。

生きることも死ぬことも容易いことではないけれど、別の次元で生きてきた(死んでいった)二人がいつか会えるのだったら、そこに救いはあると思った。 とてもよかった。