りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

どうで死ぬ身の一踊り

どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫)

どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫)

★★★★★

大正時代に極貧の生活を赤裸々に描いた長篇小説『根津權現裏』が賞賛されながら、無頼ゆえに非業の死を遂げた藤澤清造。その生き方に相通じるものを感じ、歿後弟子を名乗って全集刊行を心に誓いつつ、一緒に暮らす女に暴力を振るう男の、捨て身とひらき直りの日々。平成の世に突如現れた純粋無垢の私小説

これがデビュー作なのか。
卑小で卑屈でだらしなくて甘ったれで汚い内面を、なぜここまで正確に詳細にあけすけに書くのか、内容は決して美しくないのになぜ美しさを感じてしまうのだろうか。

無論、その間私もただ手を拱き、いたずらに指を咥えていたわけではなく、根がテレクラ嫌いにできているだけにあくまでも正攻法をめざし、数少ない友人知人、それはさして親しくもない一面識程度の相手も含まれるのだが、それらに対しても臆面なく、誰か若い女性の知り合いを紹介してください、と頼み込んで廻ったり、自身何かの拍子に珍しく女の子と知遇を得ようものなら、ここぞとばかりの唐突さで、「ぼくとおつき合いして頂けませんか?」なぞ、あせったふるえ声を出してみたりしたが、ただでさえ酒むくみの、好色そうな野卑な顔に、じっとり情慾を滲ませている私の想いを受け入れてくれる女はまるで絶無で、止むを得ず次にはそんな私にも親しくしてくれる、うれしい風俗嬢に狙いを絞り、それが所詮は黄白の代償にすぎぬものだとしても、彼女らが見せる笑顔に一縷の望みをかけ、何とか恋人になってもらえるよう、持てる力を最大限に傾注したつもりだったが、ついぞ私の求めるような結果になり得たことは一度もなかった。

女と知り合いたい、付き合いたいという想いを切々と書いているのだが、ようやく付き合って一緒に住むようになったら、女の金に手を付けて、さらに金にもならない自分の仕事を夜通し手伝わせた挙句ああだこうだと文句を言い、口答えすると殴る蹴るという、最低の中でも最低の男である。
DV男の最低な思考を手加減することなく書いていて、文句なくクズ男中のクズである。 絶対にお付き合いしたくない男であることは間違いないのだが、しかし読んでいて不快な気持ちにならないのが、つくづく不思議なのである。

ご多分にもれず、この寺もまた門の横に二本脚のガラス月の掲示板が立ってあり、中には偉人の啓蒙的な箴言を、おそらくはこの寺の僧侶が揮毫したものが揚げられていたが、このときは吉川英治の、痛風患者に湿布薬をあてがうみたいな格言がしたためられていた。

痛風患者に湿布薬をあてがう」という表現に笑ってしまう。
露悪ではないのと作家独特の自己顕示欲がないところが魅力だ。そして独特のリズムと表現。たまらない。天才だと思う。