りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

祖母の手帖

祖母の手帖 (新潮クレスト・ブックス)

祖母の手帖 (新潮クレスト・ブックス)

★★★★

1950年秋。サルデーニャ島から初めて本土に渡った祖母は、「石の痛み」にみちびかれて「帰還兵」と出会い、恋に落ちる。いっぽう、互いにベッドの反対側で決して触れずに眠りながらも、夫である祖父には売春宿のサービスを執り行う。狂気ともみまごう人生の奇異。孫娘に祖母が語った禁断の愛の物語。遺された手帖と一通の手紙が、語られなかった真実をあきらかにする。ストイックさとエロティックさが入り混じった不可解な愛のゆくえと、ひとにとっての「書く」という行為の気高さをゆったりとした語り口で描きだす奥行きの深い物語。

不思議な物語。静かなようで激しくて空虚なようであたたかい。
美しくて感受性が豊かで空想癖があって気性の激しい祖母は「頭がおかしい」と言われている。
ひたむきに愛を求めるその心と大胆な行動は時代的な背景もあり誰からも受け入れられない。狂人呼ばわりされて恋愛とも結婚とも縁遠かった祖母だったが、ある日空襲を受けて家族を失った男が実家に下宿し、その恩義から男は祖母との結婚を受け入れる。

愛のない結婚をした祖母だったが、ある時結石の治療に渡った本土で「帰還兵」と出会い恋に落ちる。
そのすべてを祖母はこっそりと手帖につづっていた。
祖母ととても仲の良かった孫娘(語り手)は祖母から「帰還兵」との愛の物語を聞いて育つのだが、祖母の死後その秘密の手帖が見つかり、思いもよらなかった真実を知ることになる…。

愛を求めてやまなかった祖母は最後にはそれを手に入れたのだろうか。
なにも語らない祖父の視線の優しさがじんわりと染みて、彼女はちゃんとそれに気づいていたのか?あるいはそれは彼女の求めるものとは違っていたのか?となんともいえず切ない気持ちになる。