りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

キャサリン・カーの終わりなき旅

★★★★★

小さい息子を誘拐され殺された過去を持つ新聞記者ジョージは、あ るきっかけから、二十年前に起きた詩人キャサリン・カーの失踪事 件に興味を持つが……。巨匠クックが繊細に紡ぎあげる贖罪の物語

面白かった!ジョナサンキャロル風味のクックという印象。
ミステリーとして読むと、ざけんなごらぁ!という気持ちになるかもしれないが、私は好きだった。

七年前に最愛の息子を何者かに殺された記者ジョージ。
自分がもっと早く迎えに行ってやればこんなことにはならなかったのに…という後悔といまだ見つからない犯人への憎悪と喪失感を抱えて生きている。
そんな彼が、20年前に謎めいた小説を残して失踪した詩人キャサリン・カーに興味を持ち、早老症の少女アリスとともにキャサリンの行方を追う。

両親を失ったキャサリンは祖父と二人暮らしで慎ましいながらも希望を持って生きていたのだが、ある日見知らぬ男に半殺しにされて以来、深い傷と恐怖に身動きができなくなり、閉じこもった暮らしをしていた。
そんなキャサリンが残した小説には彼女の失踪の真相をほのめかす物語が記されていた。
はたしてこれは真実なのかあるいはフィクションなのか。
病床にあるアリスはパソコンを駆使して解決の糸口を探し、ジョージはいつしかアリスのために少しでも希望を持てるラストを求めるようになる…。

物語自体も現実と幻想の間を漂うようで、明確なこたえを求める読者には不評を買うかもしれない。
しかし現実に起こる陰惨な事件の数々。暴力で命や希望を奪われる被害者とその家族たち。リアルなミステリーを書けば書くほどおそらく作家自身が陰鬱な気持に陥っていくのではないか。だからこそ、こういう物語を書きたくなったのではないか。

悪意や絶望を山ほど目の前に差し出しながら、ほんの少しの希望、救いを暗示するような物語だ。