りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

氷

★★★★

異常な寒波のなか、夜道に迷いながら、私は少女の家へと車を走らせた。地球規模の気象変動により、氷が全世界を覆いつくそうとしていた。やがて姿を消した少女を追って、某独裁国家に潜入した私は、要塞のような「高い館」で、絶対的な力で少女を支配する「長官」と対峙するが…。刻々と迫り来る氷の壁、地上に蔓延する抗争と殺戮、絶望的な逃避行。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで読者を魅了し、冷たい熱狂を引き起したアンナ・カヴァンの伝説的名作。

ミステリーだと思って読み始めたらとんでもない。設定はSFだが、読んでいるこちらも狂気に導くような危うさに満ちた物語だった。

氷に覆われていく世界と一人の少女に魅了された男と少女を支配する長官。三人の不穏な関係と迫りくる子氷の壁。世界が終わりかけているのに抗争を続ける人々。
少女に対する主人公の想いも矛盾に満ちていてる。それは愛なのか?ただの執着なのか?守りたいと願う一方で壊したい、支配したいという気持ちも時折見えてぞっとする。

見えるはずのないものが見えたりいられるはずもない場所にいたりとどこか現実味がないのだが、主人公の矛盾した感情がリアルでその狂気に読んでるこちらも引きづられていく。
冬に読むのにぴったりな作品だった。