りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ブーベ氏の埋葬 【シムノン本格小説選】

ブーベ氏の埋葬 【シムノン本格小説選】

ブーベ氏の埋葬 【シムノン本格小説選】

★★★★

第二次大戦直後のパリ、8月のある朝、セーヌの河岸通りの古本屋の店頭でブーベ氏が急死する。身寄もいないと言われていた彼の写真が新聞に出ると、複数の人が関係者だと言って現れる。

第二次世界大戦直後のパリ、古本屋の店頭でブーベ氏が急死する。近所のアパルトマンで慎ましい暮らしを送っていた76歳のブーベ氏は周囲の人に慕われ、身寄りもないと思われていた。
ブーベ氏が倒れたところを観光に来ていた青年がたまたまカメラにおさめ新聞社に持って行きその写真が新聞に載ったことで、自分はブーベ氏の身内だと名乗る人物が警察を訪ねてくる。
徐々に明らかなっていくブーベ氏の前歴。いったいブーベ氏はどういう人物だったのか。薄皮を剥ぐようにブーベ氏の意外な過去が次々にあらわになっていく…。

独特な雰囲気を持った作品だった。
シムノンはフランスの作家ということだが、私の抱くフランスのイメージからは程遠い。多分私の抱くフランスのイメージがあまりにも貧困なのだろう…。

何者でもあって何者でもない。ブーベ氏の隠された過去が明らかになればなるほど、その人柄がぼやけてくる。特に悩んでいるのでも苦しんでいるという風にも見えない。
その時その時を確かにブーベ氏は生きていてさまざまな人と関わりを持って仕事もして思想も持っている。しかししばらくするとブーベ氏はそれらの仕事や結婚、しがらみ、関係を壊して逃げる。

その生き方は不可思議ではあるが、分からないではない。
何もかも放り出して逃げてしまいたい、別の誰かになりたい、と思ったことがない人はいないのではないか。
ましてや戦争でがらっと変わる世界を生きていたらなおさら。

ブーベ氏は最後は何もかもから解き放たれて浮浪者になることを夢見ていたのだろうか。
決して明るくはないのだが暗くもない、不思議な読後感。