晴天の迷いクジラ
- 作者: 窪美澄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/02
- メディア: 単行本
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壊れかけた三人が転がるように行きついた、その果ては?人生の転機に何度も読み返したくなる、感涙の物語。
相変わらず力のある物語を書くなぁ!とうれしくなる。
由人は24歳のデザイナー。仕事の忙しさから鬱になり恋人に振られ勤めていたデザイン会社も潰れそうで、自分自身が生きていく意味が見出せなくなっている。
野乃花は48歳のデザイン会社社長。女を捨てがむしゃらに働いてきたが、自らの会社が潰れそうになり、結局自分は何もできなかったという無力感に苛まれている。
正子は母親の過干渉に振り回され、ようやくできた友だちを失い、なす術もなくリスカを繰り返す。
生きる意味を見いだせなくなった3人が迷いこんできたクジラを見に旅に出る。
一番味方でいてほしい人がいなくなったとき、自分の居場所がなくなったとき、本当に自分は一人ぼっちになったのだと感じた時、ふともう死んじゃってもいいかもと思う。
そんな三人の姿は身動きがとれなくなったクジラと重なる。
生きるのは決して楽しいことばかりではなく辛いことも多い。
なんでこんなに苦しいのに生きていかなきゃいけないのだろう。自分が死んでも困る人なんか一人もいないのに。誰の記憶にも残らないのに。
そんなふうに思う時が誰にでもあるだろう。
そして誰からそんなふうに自分自身を追い詰めていると分かった時、自分はどうやったら相手を助けてあげることができるのだろう。どんな言葉をかけられるだろう。
意味があろうがなかろうが、生きてるだけでいいのだ。
気のきいたことなんか言えなくてもいい。死なないでほしいとだけ言えればいいのだ。
作者がどうしても伝えたかったことがストレートに伝わってくる。そこが好きだ。甘くはないけど元気になれる素敵な小説だと思う。