女の二十四時間―― ツヴァイク短篇選 (大人の本棚)
- 作者: S.ツヴァイク,池内紀(解説),辻・大久保
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2012/06/21
- メディア: 単行本
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女というものは生涯のうちに秘密にみちた力に身をまかせてしまう時がある。デーモンに翻弄される女性の心理を克明に描いた名作、他二篇。傑作選の第2弾。
「女の二十四時間」
1904年頃、リヴィエラのホテルにおける駆け落ち事件が起きて、宿泊客たちは激しく動揺する。夫もいる立派な夫人が、夫と2人の子どもを残して若いフランス人と駆け落ちしたのだが、2人が接触したのはほんの2時間ほど。まさかそんなことがあるはずがないと人々はあれはもともと恋人同士で世を欺くために顔見知りでないふりをしていたのだという意見が多い中、「わたし」は、そういうことは大いにありうることだと力説する。
そんな「わたし」にイギリス人の上品な老婦人Cが近寄ってくる。「あなたにだけ聞いてほしいことがあるのです」と。
婦人が語るのは、長年自分の内に秘め続けてきた秘密。
気品に溢れる彼女だが、子どもが巣立ち最愛の夫を亡くしたある年、カジノで人々の様子を冷めた目で観察していた時に、とある若者から目が離せなくなり、思わぬ行動をとってしまう…。
彼女自身が深い闇のなかにいたからこそ、彼の闇に引き寄せられ目をそらせなくなったのだろう。
しかしその結末は目を背けたくなるほど屈辱的なものであった…。
それまでの自分の人生を燃え尽くすほどの情熱とその後味わった正視することができないほどの恥辱。
心理描写がとても細やかで丁寧なのでまるで自分のことのようにリアルに伝わる。
女には確かにそういうところがある…。と深く理解できる。
「圧迫」
徴兵を逃れるため妻とスイスに逃げてきた絵描きのもとに召集令状が届く。いつか来るだろうと恐れていた通知が届いてからの主人公の追い詰められていく心情がとてもリアルで苦しかった。
絶対に逃げるべきと強固に言い張る妻に対し、絵描きは早々に出頭しようとする。恐れが大きいだけに現実を直視できず逃げる力も奪われてしまったのだ。
静かな語り口だけど、作者自身の「反戦」の思いが伝わってきた。