りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

海にはワニがいる

海にはワニがいる

海にはワニがいる

★★★★★

パキスタン、イラン、トルコ、ギリシア、そしてイタリア―アフガニスタンを逃れた10歳の少年は、母が消えた翌朝からただ一人、安住の地をさがしもとめ命をかけて国境を越え、旅をつづけた。少年の苛酷な彷徨を、近しくも静かな視点でときにユーモアをまじえて描きイタリアをはじめ世界中の読者の心を動かした、事実にもとづく物語。

これが実話であることにまず驚愕…。
本当に私は何も知らないでいるんだなぁ…。社会のことにあまりにも疎い自分を申し訳なく思う。

主人公エナヤットはアフガニスタンに暮らす少数民族ハザラ人。タリバーンからの厳しい迫害に遭い、息子の命を危ぶんだ母は彼をパキスタンに連れ出し一人置き去りにする。
10歳の少年を置き去りにした母の想いはどれ程のものだったのか。
彼の生命力と正直さ、善良さに全ての運を委ねたのだろう。
それほどアフガニスタンで生きていくことは難しいということなのだろう。

パキスタンからイラン、イランからトルコ、トルコからギリシア、そしてイタリアへ向かうエナヤットの旅はまさに命がけ。
何回も警察に捕まり強制送還されたり公園で寝たり回りの人が死んでいくなか、彼が生き残ってイタリアまでたどり着けたのは、母の3つの教え(「麻薬に手を出すな」「武器を使うな」「盗むな」)を守ったこと、そして彼の善良さと勤勉さ、そして運の賜物。

より良い暮らしがしたい、その一心でエナヤットは危険なたびを続けるのだが、彼ののぞむ「より良い暮らし」とは、勉強をして働いて安心して暮らす、ただ人間らしく暮らすことなのだ。
そんな当たり前を当たり前と思えることの幸せを、この本は教えてくれる。
善良であることとはどういうことかを教えてくれる。ブラボー。