キャンバス
- 作者: サンティアーゴ・パハーレス,木村榮一
- 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
- 発売日: 2011/12/20
- メディア: 単行本
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天才画家は我が子に「盗め」と告げた——あの美術館から、自らの傑作を。
精緻な構成、圧倒的な筆力、心震えるラスト
驚異のストーリーテラーの真骨頂。前代未聞の高額で落札された1枚の名画。
しかしその除幕式で絵が披露された瞬間、作者である老画家の表情が一変する。
数日後、老画家が息子に明かしたのは驚愕の事実だった……すべての読者の魂を揺さぶる、天成の物語作家の長編小説。
好き好き大好き!
とにかくこの作者の「螺旋」が大好きだったので、ものすごい期待して読んだんだけど、期待通りの素晴らしい作品だった。
天才的な画家エルネストが息子フアンに自分の代表作である「灰色の灰」を競売にかけたいと言い出すところから物語は始まる。
今まで決して手放そうとしなかった作品をなぜ今になって?父の真意を理解できぬまましかし父の意思を尊重して行動を起こすフアンなのだが、彼の予感は的中?し、その後父はとんでもない依頼をしてくる…。
展開するストーリーは「螺旋」に比べると確かに地味だ。
特に、天才画家で極端にコミュニケーションをとることがヘタクソな父と、常識人でモラルの高い妻との板ばさみになるフアンが気の毒で、読んでいるこちらも息苦しくなってくるほど。
しかしフアンの視点で描かれている現在と並行して語られる、エルネストと彼の師であり親友でもあるベニートとの物語はなんとも言えずユーモラスで素敵だし、フアンの子ども時代の物語は愛に溢れていてとても温かい。
それが不穏なストーリーに温かい空気を与えていて、そこがたまらなく好きなところ。
この穏やかな空気があまりにも好きすぎて、きっとサンティアーゴ・パハーレスって凄く優しい人なんだわっ!と作者に思いを寄せてしまうほど。
とにかく素敵な作品。
他の作品も翻訳されますように!
以下ネタバレ。
美術館に飾られているのは手直しした贋作で、フアンが贋作として受け取っていたのが本物だった、とわかるラスト。
その根拠となるのが前半の非常に印象的なシーンで、出来上がったばかりの絵の絵の具の匂いや指で触った時のべたっとした感触が読んでいる側にも蘇ってくる。
これは父から息子へのプレゼントであり、フアンが愛されていたことの証でもあるのだ。
実に見事だと思う。