りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ローラ・フェイとの最後の会話

★★★★★

講演のためにセントルイスを訪れた歴史学者ルーク。しかし、会場には、再会するとは夢にも思わなかった人物が待ち受けていた。その名はローラ・フェイ・ギルロイ。20年前、遠い故郷でルークの家族に起きた悲劇のきっかけとなった女性だ。なぜいま会いに来たのか?ルークは疑念を抱きつつも、彼女とホテルのラウンジで話すことにした。だが、酒のグラス越しに交わされた会話は、ルークの現在を揺り動かし、過去さえも覆していく…。謎めいたローラ・フェイの言葉が導く驚愕の真実とは?巨匠の新たなる代表作。

トマス・H・クックが好きだ。
彼の「記憶」シリーズは、停滞しているような現在があって、過去に何があったのか?なぜそういうことが起きたのか?というのを、じわじわと皮をはぐように明らかにしていくという物語が多くて、圧倒的なストーリー展開を求めていたような時期にはまどろっこしく感じることもあったのだが、今はこのじわじわ…がたまらなくスリリングに感じる。

物語の主人公ルークは冴えない歴史学者
自分は特別な人間なのだと思い、ハーバード大学を目指していたころは、輝かしい未来が約束されているかのようだったのに、素晴らしい本を書くという情熱を失くし、愛する妻からも離れ、なぜ今はこんなにも死んだように生きているのか。

講演に訪れたセントルイスで、彼の家族に起きた悲劇のきっかけとなった女性ローラ・フェイが訪ねてくる。
なぜ今になって彼女は彼を訪ねてきたのか、彼女の真の目的はなんなのか。
疑念と恐れを抱きつつも彼女を拒むことができず、ルークはローラをホテルのラウンジに誘い、今まで蓋をしてきた過去について語り合う。

物語のほとんどの部分が、ルークとローラの会話。
登場人物も数えるぐらいしかおらず、ひたすら淡々としていて地味な展開だ。
なのに、ものすごい緊張感があって、ページをめくる手を止められない。

現在と過去を行きつ戻りつするなかで見えてくる真実。
あの時「真実」だと思っていたことが実はそうではなかったとわかったとき。
長いこと蓋をして隠し続けていた自分の悪意。それが自分の人生をどれだけ蝕んできたか。
起こってしまったことは取り返しがつかない。全てを取り戻すことはできない。
でもそれでも人生は続く。
自分の悪意を認め、違う視点を持つことで、長い間呪いをかけられたかのように麻痺してしまっていた感情が動き出す。

いままでのクックの作品とは一味違った後味がとても良かった。