りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ネザーランド

ネザーランド

ネザーランド

★★★★

ある春の夕方に届いた訃報。ロンドンに暮らすオランダ人ハンスの思いは、4年前のニューヨークへさかのぼる―2002年。アメリカを厭う妻は幼い息子を連れてロンドンに居を移し、ハンスは孤独で虚ろな日々を送っていた。しかし、ふとしたきっかけで遠い少年時代に親しんだスポーツ、クリケットを再開したことで、大都市のまったく違った様相をかいまみる。失うとは、得るとは、どういうことか。故郷とは、絆とは―。数々の作家・批評家が驚嘆した注目の作家がしなやかにつづる感動作。PEN/フォークナー賞受賞。

主人公のハンスは妻の転勤で生まれたばかりの息子とニューヨークへ移り住む。
仕事は順調なのだが、911をきっかけになのか母の死を乗り越えられなかったのか、どんどん内省的になっていくハンス。
そんなハンスとニューヨークに我慢しきれなくなったのか、妻は息子を連れてロンドンへ戻ってしまう。

ハンスの思考は現在と過去の間をふわふわと漂い、自分が何物なのか何をどうしたいのか分からなくなり、そんなハンスの心情を映し出すように、全体的に靄のかかっているような雰囲気…。
それが今の私自身の心情ともリンクして、なかなか読むのがしんどかった。

ハンスはふとしたきっかけで少年時代に親しんだクリケットを再開し、そこでトリニタード出身のチャックという男と知り合う。
クリケットでアメリカンドリームを叶えるのだ!と熱く語るチャックだが、マフィアの使い走りっぽいことをしていたりして、いかにも胡散臭い。
なんとなくこの人に近づきすぎると面倒なことになりそうだぞ、という香りがプンプンするのだが、でもそのバイタリティと生命力は、生気を失っているハンスをつかの間元気にしてくれたりもする。
連れて行かれたクリケットスタジアム予定地の美しさにはっとしたり、彼の行っているビジネスの禍々しさをちらっと見せられてぞっとしたり、よくわからないところもあるのだが、時々はっとするような印象的なシーンがあって、深いところで「なんかわかる」ような気がする。

どん詰まりでこれから先もう何もいいことは起きないだろうし、自分も前のようにはいかないだろうと絶望している時でも、実は魅力的な出逢いがあったり、とりつかれたように何かに夢中になったりしているものなのだと思う。
そして何かをきっかけに前に進めたりするものなのだなぁ…。

読みづらかったけど、さいごまで読んで良かった。
渋い小説だった。