りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

菜食主義者

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

★★★★

「新しい韓国文学シリーズ」第1作としてお届けするのは、韓国で最も権威ある文学賞といわれている李箱(イ・サン)文学賞を受賞した女性作家、ハン・ガンの『菜食主義者』。韓国国内では、「これまでハン・ガンが一貫して描いてきた欲望、死、存在論などの問題が、この作品に凝縮され、見事に開花した」と高い評価を得た、ハン・ガンの代表作です。
ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある日突然、肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく姿を見つめる夫(「菜食主義者」)、妻の妹・ヨンヘを芸術的・性的対象として狂おしいほど求め、あるイメージの虜となってゆく姉の夫(「蒙古斑」)、変わり果てた妹、家を去った夫、幼い息子……脆くも崩れ始めた日常の中で、もがきながら進もうとする姉・インへ(「木の花火」)―

3人の目を通して語られる連作小説集

新聞の書評を読んで気になって読んでみた。
ところで新聞の書評で紹介される本で小説の割合が少ないのはなぜなんだろうか?
確かに本屋さんに行ってみると、小説以外のジャンルの本の方が圧倒的に多い。ってことは、小説は本のほんの一部ってこと?
ほとんど小説しか読まない私からすると、書評でとりあげられる本のほとんどがすごく希少な本に思えるんだけどなぁ…。

いきなり菜食主義になってしまった女性を、夫、姉の夫、姉の視点から描いている。 夫の目から見ると、妻の行動はただただ不可解で腹立たしいものでしかない。
もともと妻のことを、ぱっとしないけど自己主張もないし「この程度」の女が結婚するにはちょうどいい、ぐらいにしか思っていなかっただけに、この突然の反乱には戸惑うばかりだ。
読んでいる側は、この夫の視線を不愉快に思いながらも同じ視線で彼女のことを見てしまうので、徐々に常軌を逸していく彼女の行動がとても不気味なものに思える。

2章では、姉の夫の視点で語られる。
有能な妻に食わせてもらっている芸術家の夫。姉である妻の方が美人なのだが、なぜか野暮ったい妹の方に惹かれてしまう。
彼女に対する性的な欲望を我慢することができなかった彼は、彼女をますます狂気の世界へと追いやってしまい…。

3章では、彼女によって夫を奪われた姉の視点で語られる。
妹を恨みながらも、献身的に彼女の看病をする姉。彼女が思い出す幼少時代から、彼女の狂気が根の深いものであったことがようやくわかる。

内省的なのにとてもスリリングで緊張感に満ちている。独特の空気感のある小説だった。