りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

オリーヴ・キタリッジの生活

オリーヴ・キタリッジの生活

オリーヴ・キタリッジの生活

★★★★★

アメリカ北東部の小さな港町クロズビー。一見静かな町の暮らしだが、そこに生きる人々の心では、まれに嵐も吹き荒れて、生々しい傷跡を残す—。穏やかな中年男性が、息苦しい家庭からの救いを若い女性店員に見いだす「薬局」。自殺を考える青年と恩師との思いがけない再会を描いた「上げ潮」。過去を振り切れない女性がある決断をする「ピアノ弾き」。13篇すべてに姿を見せる傍若無人な数学教師オリーヴ・キタリッジは、ときには激しく、ときにはささやかに、周囲を揺りうごかしていく。ピュリッツァー賞を受賞した珠玉の連作短篇集。

好き好き!これは本当に良かった!こういう小説が本当に好きなんだ!ありがとうありがとう!書いてくれた人にも、翻訳してくれた人にも、出版してくれた人にも、感想を書いてくれた人にも…みんなに感謝したい!そんな小説。
出会えてよかった。気付けてよかった。本が好きでよかった。

オリーヴ・キタリッジはアメリカの小さな港町に暮らす数学教師。
気分屋で独断的で傍若無人でとっつきにくい強烈な女性なんだけど、この連作短編のさまざまなシーンの中でちらっとあらわれるオリーヴの個性がどうにもこうにも忘れがたくて、最後まで読んだらもう離れがたい気持ちになっている。

まじめで優しくて善人なオリーヴの夫ヘンリーが自分の経営する薬局に勤める「ぱっとしない女店員」に抱く秘めた想い。この真剣さと残念さがもうなんともいえない…。
そしてヘンリーの目から見たオリーヴ。直情的で激情家で、でも基本的には善意のかたまりで…。

この連作長編という形式がものすごく効いていて、オリーヴ本人の章もあれば、町の他の人の章でちらっと出てくるオリーヴもあって、その近づいたり離れたりする中で、気がつけばもうこの強烈で欠点だらけのオリーヴのことがもう大好きになっているのだ。

中年だったオリーヴも老年になり、大事に育てた一人息子が、「なんでもわかっているのよ」風の女と結婚しちゃったり(この「なんでもわかってる」感、いやだよねぇ!わかるよ、オリーヴ!こういう女が一番いや!私も!)、その女の言いなりになって遠くに行ってしまった挙句離婚されちゃったり、唯一の「理解者」であった夫が倒れて老人ホームに入ってしまったり、その夫に先立たれてほんとに一人ぼっちになってしまったり…。
中年から老年に差し掛かる孤独、不安、やるせなさがものすごくリアルに描かれていて、「ああ、そうなんだろうな…」と、決して遠くない未来なだけに苦い苦い…。

自分が世の中で一番不幸なわけじゃない!と思いたいがために訪れてしまった家で返り討ちにあったり、ようやく歩み寄ってくれた息子とその再婚相手にキレて関係を修復させるどころか決定的にダメにしてしまったり…。
そういうこと、あるだろうなぁ…といちいち「苦い」のだけど、でもなぜかちょっとおかしい。人間のすることってなんでかわからないけど、ちょっとおかしいんだよなぁ…と思うと、ちょっと救われるような気がする。そこがすごくいい。

これはほんとに素敵な小説だよ…。
読めてよかった。出会えてよかった。

ところで、この作者。
どこかで聞いたことがあるような?と思ったら、一作目を読んでいたのだった。
寡作な人のようだが、これからどんどん書いてほしい。そしてどんどん翻訳されてほしい!