オスカー・ワオの短く凄まじい人生
オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)
- 作者: ジュノディアス
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/02
- メディア: ハードカバー
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オスカーはファンタジー小説やロールプレイング・ゲームに夢中のオタク青年。心優しいロマンチストだが、女の子にはまったくモテない。不甲斐ない息子の行く末を心配した母親は彼を祖国ドミニカへ送り込み、彼は自分の一族が「フク」と呼ばれるカリブの呪いに囚われていることを知る。独裁者トルヒーヨの政権下で虐殺された祖父、禁じられた恋によって国を追われた母、母との確執から家をとびだした姉。それぞれにフクをめぐる物語があった―。英語とスペイン語、マジックリアリズムとオタク文化が激突する、全く新しいアメリカ文学の声。ピュリツァー賞、全米批評家協会賞をダブル受賞、英米で100万部のベストセラーとなった傑作長篇。
オタク青年の非モテ物語かと思いきや、もっともっと壮大な物語なのであった。
オスカーは超絶太っていてオタクで全く女の子にもてない。
しかし本人は常に誰かのことを好きになってしまう恋愛体質。ひとたび好きになるとストーカーのような行動に出てしまうため、女の子たちからは気持ち悪がられるという悪循環。
しかも彼のいるドミニカでは、女の子にもてないというのは、もう致命的なことなのである。女性経験がない男性は死んだ方がいい、ぐらいのもんなのである。
そんなオスカーも幼少の頃は見目麗しくガールフレンドもいたのである。
それがなぜこんなふうになってしまったのか。
それは全て一族にかけられた「フク」(呪い)のせいなのである。
と、物語の語り手は語る。
ドミニカ王国は30年にわたり、トルヒーヨという独裁者に支配されていた。
トルヒーヨはどこまでも残虐で美人とみればレイプしまくり、少しでも気に入らなければ処刑しまくり、少しでも自分に歯向かうものには呪いをかけまくった。
オスカーの一族も、彼の祖父がトルヒーヨににらまれたばっかりに、呪いをかけられたのである。
その呪いはオスカーだけではなく、オスカーの姉にもオスカーの母にも「きっちり」効いている。
特に母の方がすさまじく、もうあまりのすごさに笑ってしまうくらいなのである。
そしてここまで読んでようやく私は気付いたのだ。
これは、いかにもポップでジャンキーっぽく書かれているが、ドミニカ版「百年の孤独」なのだ!ということに。
物語の後半になって、物語の語り手がようやく判明する。
そしてオスカーの物語も加速をつけて激しく展開していく。
もうここらへんの展開はジェットコースター並みの激しさなのだが、語り口調はどこまでも軽くユーモラスなので、なんとなくドタバタ劇を見ているようでもある。
とにかく読みやすい物語ではなかった。
ポップな語り口のわりに内容がヘヴィだし、とにかく注釈が多くてそこも含めての「物語」なので読まないわけにはいかないのだが、正直ちょっとめんどくさい。
だからきっと好き嫌いが分かれる作品なのだろうと思う。
で、私の場合は、好き好きかなり好き。やっぱりこれぐらい濃ゆーい小説は読んでいて楽しい!文句なしの★5つ。
解説を読むとこの物語がどうしてこんな風にジャンキーを装って描かれたかがわかる。
あまりにも残酷な支配者トルヒーヨを描くためには、こんな風にジャンクでなければ語れなかったのだ。
そう思って読むと、悪ふざけの中にものすごい深刻な表情を見ることになる。
でもそれだけではない。なにか人間の根本的な強さや善良さに触れることができたような気がする。
とても素敵な小説だった。