りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

アニマルズ・ピープル

アニマルズ・ピープル

アニマルズ・ピープル

★★★★★

スラム街の人々から“動物”と呼ばれる青年。インドのカウフプールに住む彼は、赤ん坊の頃に巻き添えとなった汚染事故の後遺症で、四本足での生活を送っていた。「おれはかつて人間だった。みんなはそんなふうに言う」と“動物”はうそぶき、その数奇な人生を語りだす。育ての親であるフランシかあちゃんとの生活、愛しい女子大生ニーシャやアメリカから来た美人医師エリとの出会い、そして汚染事故を起こした「カンパニ」と戦う個性的な仲間たちとの波瀾の日々を―世界最悪と言われた実際の汚染事故を下敷きに、みずからの不遇と容姿に苦悩する青年の生き様をユーモラスに描き上げる傑作長篇。コモンウェルス賞受賞作、ブッカー賞最終候補作。

インドのカウフプールという町にカンパニが建てた工場がある日大爆発を起こし、町は汚染し莫大な被害を受けた。
何千人という住民が死に、かろうじて生き残った人たちも毒ガスの影響で内臓や脳をやられ、その後の人生に大きな影を落とされる。
事故当時乳児だった主人公は、親族を失い孤児院で育てられるが、ある時から毒ガスの影響で身体が折れ曲がり四足になってしまう。

その異様な姿から「動物」と呼ばれた彼は、世の中を呪い人間性を失い、まさに獣のように生きていたのだが、ある日女子大生ニーシャに出会い、カンパニと戦う仲間たちを紹介される。
戦いの先頭に立つのはザファルという男。私財を全てなげうって、被害を受けた人々のために戦うザファルはカウフプールの英雄だ。
ニーシャに恋する「動物」は、彼女とザファルの関係に気付き、嫉妬に苦しみながらも、彼らと行動をともにすることで、それまで捨ててきた人間性を取り戻して行く…。

とてもヘヴィな物語だ。
彼らの置かれた状況は悲惨としか言いようがなく、やり場のない怒りと恐怖を感じるのだが、しかしこの小説はそれだけではないのだ。
主人公の「動物」はものすごい偽悪家で、下ネタを連発し、世の中に常にツバを吐きまくっているのだが、それがものすごく爽快でユーモラスで思わず笑ってしまう。
それだけに、時々ほとばしる彼の苦しみがより胸を打つのだ。
そして「動物」と名乗りながら、誰よりも聡明で傷つきやすく葛藤する姿に、共感しないではいられない。

あとがきを読んだたら、これは実際に起きた事故なのだそうだ。
1年前なら「そんな酷いことが現実に起こりえるのだろうか?」と思ったかもしれないけれど、今の日本の状況を見ると、「ああ、そういうことは起こるのだ」「それをいったいどうしたらいいのだろう」と思わずにはいられない。
そう考えると、これは決して特異な物語なのではなく、非常に普遍的なことを描いた作品といえると思う。

読んでいて辛かったけれど、でも出会えてよかった、そう思える小説だった。